三十路前のモヤモヤを群像劇で丁寧に描く映画『30S(サーティーズ)』はどの世代の背中もそっと押してくれる

Quarter Life Crisis(クォーターライフクライシス)という言葉をご存じでしょうか。
言葉自体が聞かれるようになったのは2001年頃からといわれていますが、

二十代後半から三十代にかけて漠然とした不安や焦りを抱える時期

といえば、思い当たる人も多いのではないでしょうか。
人生100年時代の四分の一が過ぎる25歳から30歳にかけてのあのどうしようもない焦燥感。
過ぎてしまえばなんてことないのですが、当事者には重大問題。

筆者も典型的な一人で、区切りをつけようとドイツ式に自分で30歳のバースデーパーティーを主催した過去があります。

しかし、30歳のタイミングに限らず、理想と現実のギャップに戸惑ったり、自分の人生について立ち止まってふと考えてしまったりということは年齢問わず起こりますよね。

今回は、鑑賞後、優しくポンと肩を叩かれたような、背中を押してもらえたような感覚になった映画『30S(サーティーズ)』を紹介します。



目次

3つのストーリーを軸に過去と現在が交錯していく群像劇

どんな内容の映画なのか、公式のあらすじを抜粋します。

30歳の誕生日を数日後に控えた主人公向井タケル(小野匠)のもとに、大学時代の同級生だった御手洗甲(真田佑馬)からメッセージが届き、10年前の“ある言葉”を思い出す。
10年前―2012年10月31日。
タケル、長嶺蓮香(財田ありさ)、御手洗の三人は同じ誕生日で20歳を祝っている。御手洗は熱弁している。
10年後のある日、御手洗の妹・御手洗薫(新田桃子)から電話が入る。
「兄が失踪したんですが、居場所に心当たりはありませんか?」
御手洗の失踪を合図に、それぞれの人生の歯車が動き出す。

“人”や心の揺れをとても細かく丁寧に描いているこの作品は、心にグサリと刺さる台詞がいくつもあり、映画を観ながら同時に自分の人生も振り返ってしまいました。
白黒はっきりすることばかりでなく、グレーなことも多々ある日常をそのまま映画にしたという印象のヒューマンドラマです。
グレーな描写なのであちこちに様々な解釈が得られ、ミステリアスな展開が気になるからもう一度観てみたい!とリピーターも増えています。

原案・プロデュースはアーティストグループ「7ORDER」の真田佑馬さん

公開前から話題で本予告公開前の特報はTwitter(現X)で5万回再生。
完成披露試写会、初日舞台挨拶付き上映は共に発売15分で完売しました。

この映画の原案・プロデューサーを務めているのは、アーティストグルーブ「7ORDER(セブンオーダー)」の真田佑馬さんです。
30歳目前のある日、20代のときに書いた、30歳までにやりたいことリストの中の「映画を作る」が叶えられていないことに気付いた真田さん。
どうしても実現させたいという思いを募らせ、映像を勉強していた大学時代の恩師である佐藤克則監督に声をかけたのが『30S』のスタート。
自分の貯金を切り崩して映画製作の資金源にしたとのことで、情熱が伝わってきますね。

「映画は人に見てもらって映画として完成する」

8月11日にシネ・リーブル池袋(東京)で公開されると、単館上映ながら公開1週間で観客動員1000人を突破し、上映期間の延長が3度行われています(9月6日現在)。
8月25日からシネ・リーブル梅田(大阪)UPLINK京都(京都)で公開されると、UPLINK京都での8月25日~27日の観客動員ランキング1位を記録しました。
SNSでの「なかなか行けない」「遅い時間に上映してほしい」などの声や反響などが形になっています。
上映劇場が限られているので気軽に観に行けないのが難点ですが、“わざわざ映画館に観に行く”のもミニシアター系映画の魅力です。

公開4週目のシネ・リーブル池袋のサイン入りの映画ポスターには、ポラロイド写真の裏側(映画での重要な小道具)を模したカードに来場者へのメッセージで溢れていました。

舞台挨拶等のイベント付上映の後は、キャストのお見送りやスタッフとの映画談義などあたたかな雰囲気に包まれていて、鑑賞後のふわ~っとした空気に似ています。

佐藤克則監督(以下佐藤監督)と、主人公と同世代、真田さんと同窓のリアルサーティーズのお二人長澤拓也エグゼクティブプロデューサー(以下長澤P)宮崎彩代プロデューサー(以下宮崎P)にお話を伺うことができました。

wellfy独占インタビューです。

作り手が感じる「30歳」「30代」、コミュニケーション術

30歳について、仕事の進め方について伺いました。

―30歳とは?

佐藤監督:だいぶ前のことなので……振り返ると30歳は楽しかったですよ!青春でした(笑)
40代の今のほうがしんどいと感じています。『30S』の登場人物の悩みが遅れてやっているのかも(笑)
この映画を作ってみて、今は寿命が延びたりして、30歳が精神的な成人式なのかなと感じるようになりました。

長澤P:もっと大人だと思っていました。10代のときに漠然とした30歳の人のイメージがあって、20代のときにそうはならないなと思いまして(笑)
20代半ばで出会った30代の方々が仕事のできる方で、なんでもできてしまうイメージだったんですが、まだそこには達していないなあと思っています。

宮崎P:ターニングポイントです。『30S』が転機になりました。
20代はガムシャラに仕事を続けていて、28,29でみんなが感じる漠然としたこの先の不安を直で感じていました。
30歳になったらどういう大人になるのかな、どういう人生を歩むのかなとリアルタイムで考えていたタイミングでこの仕事の話をもらったんです。
作品に関わることで、20代で考えていた理想像の縛りから解放されて新しい自分のあり方、自分らしさを見つける余裕ができました。

―リアルサーティーズが中心の現場は他の仕事現場と何か違いがありましたか?

宮崎P:フラットな感じで付き合えるのは魅力的ですが、頼る人がいないとなると常に考えていないとけませんし、逃げ場がないというか、自分が責任を取る立場になるのでかなりプレッシャーになりました。

―恩師(先生)が監督だとプロデューサーとしてやりにくくなったりしませんでしたか?

長澤P:いいえ、むしろやりやすかったですよ。佐藤監督が命令型ではなくて、話を聞いて受け止めてくださるんでなんでも言えちゃって。言いすぎちゃって逆にやりにくくしちゃったかなと思う感じでした。

宮崎P:トップダウンじゃないので突然の無茶なオーダーにも頑張って対応していました。こういう理由だからこうしたい、と言われたら無理難題でも頑張ろうかとなりました。

―逆に教え子との仕事はやりやすいのでしょうか?やりにくいのでしょうか?

佐藤監督:卒業生とはやりやすいですよ!私が軍隊の司令官のようなわけではなく、
仕事だからお互い本気でぶつかりあえますし、お互いの空気感もわかるから。
逆に在学生とはやりにくかったかもしれません。先生と学生だと学生寄りにいるのが先生なので、監督としての姿を見てびっくりしちゃうというか。モノづくりの現場って本気だから、怒っているわけではなくピリッとした空気になるじゃないですか(長澤P、宮崎P頷く)そしたら、それが先生怖いになってしまい、後日大変でした。

佐藤監督の「映画は人に見てもらって映画として完成する」という言葉を実感しているスタッフで組まれたチーム。劇場に足を運んでくれるお客様は本当にありがたい存在なんですと話してくださった宮崎Pの話に大きく頷く佐藤監督と長澤Pが印象的でした。

真田さんの夢を叶えた映画『30S』は、夢を追っている人、夢を諦めた人、夢がない人、人生を生きている私たちの背中をそっと押してくれる優しい映画です。
“月”が象徴的に描かれるこの作品、月が綺麗な九月におすすめの映画です。
お近くに劇場がある場合は要チェックです。

映画『30S』の予告動画


上映劇場情報(9月13日現在)

【東京都】シネ・リーブル池袋 ~9月14日(木)
【大阪府】シネ・リーブル梅田 ~9月7日(木)
【京都府】UPLINK京都     ~9月7日(木)
【北海道】サツゲキ      9月8日(金)~
【愛知県】刈谷日劇       9月15日(金)~
【福岡県】KBCシネマ     10月24日(火)のみ
【栃木県】小山シネマロブレ  11月17日(金)~

公式サイト
https://www.movie30s.com/

公式Twitter(X)
@movie30S
https://twitter.com/movie30S

公式TikTok
@movie30s
https://www.tiktok.com/@movie30s?_t=8efL4wDRdsP&_r=1

出演:小野匠、財田ありさ、新田桃子、真田佑馬、茜屋日海夏、山口太郎 他

監督:佐藤克則
スタッフ:
脚本・監督 佐藤克則
原案・プロデューサー 真田佑馬
制作・配給:株式会社STUDIO CARNET
製作:映画「30S」製作委員会

製作年 2023年
上映時間 135分
映倫区分 G

出典:©︎映画「30S」製作委員会

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この記事を書いた人

大学卒業後、国語学会で学術雑誌の編集と秘書を兼任。その後、放送作家と並行してテレビ局、制作会社で番組制作を行う。演者側だった学生時代から継続して様々な形でエンタテインメントに関わる。現在は書く仕事に加え、講師、カフェスタッフ等パラレルワーカー。原則、メディアと明かさず自費で情報収集することで媚びない正直な記事を目指す。得意分野はエンタメ・ビューティ・美味しい。

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