近年、選択子なしの「DINKS」夫婦は珍しくありません。
DINKSとは、「Double Income No Kids」の頭文字をとった言葉で、
子供を持たない共働き家庭
を指します。
今回は、子供を持つべきか悩んでいる方や、DINKSの現状について知りたい方に向けて、選択子なし夫婦に関する基礎知識を解説していきます。
選択子なし夫婦「DINKS」という言葉の歴史
そもそも、DINKSという概念はアメリカで生まれました。
DINKSという言葉が生まれた当初は、自身の時間やキャリアを優先するために子供を持たない選択をした、というニュアンスが強くありました。
しかし昨今、経済状況・社会状況の悪化などに伴い、
- 子供を儲けても、満足のいく教育を受けさせられない
- このような世の中では幸せに過ごすのは難しい。子供につらい思いをさせたくない
といった理由から、子供を持たない選択をする人も増加傾向にあります。
日本で選択子なし夫婦の割合が増えている・子供を産み控える背景
実質賃金減少など経済的な理由が夫婦に産み控えに繋がっている
特に日本では、
実質賃金の減少、税負担の増加、物価の上昇など、経済的に苦しい状況に立たされる家庭が増えており、それにより、子供が欲しいけれどやめておこう、と考える夫婦も出てきています。
総務省の統計によると、2000年から20年の間に、物価指数は15%増加していますが、実質賃金はこの間、5%減少しています。教育負担も増えており、私立大学の学費は過去20年間で約3割増加しています。
また、日本はジェンダーギャップ指数が高い国であり、男女の賃金格差が改善される兆しはあまり見えません。
性犯罪が放置され、「パパ活女子」「立ちんぼ」などが「売る側女性の問題」としてフィーチャーされる一方、パパ活女子を買う中年男性(名前もつけられておらず、透明化されています)、買春する男性などは、罪を問われることが稀だという性差別的な構造も温存されています。
出産・子育てに対する厳しい目線と古い考え方も子なし夫婦増加の一因
とある大御所お笑い芸人が、
新幹線でずっと赤ちゃんをあやしている母親がいて、うるさかった
と公共の電波で発言したこともありました。
また、女性は子育てを機会にキャリアが中断され、子育てから復帰した後は、元のような給与を得ることはかなり難しくなってしまいます。産休を取得しても、「同僚に迷惑をかけている」と肩身が狭い思いをすることもあります。
さらには、妊婦さんを「妊婦様」と揶揄したり、ベビーカーを蹴ったりする、「妊婦に攻撃的な人」も残念ながら存在しています。
さらには、日本は無痛分娩(という名前の麻酔を使った分娩。完全に無痛ではない)さえ、導入が遅れています。
「腹を痛めて産んだ方がいい」という原始的な考えが横行し、女性の痛みが軽視されている現状も残っているのです。
「少子化は生まない女性のせいだ」という考えが透けて見える現状が子なしを助長
国や自治体が進めている少子化対策は、「いかに女性に子供を産ませるか」にフィーチャーしたものばかりであり、産んだ後はほぼ自己責任になっているのが現状でしょう。
それが証拠に、シングルマザーの二人に一人は貧困ライン以下の収入しか得られていませんが、シングルマザーの貧困を解消する抜本的手立ては一向に取られていません。
日本保守党の代表で小説家の百田尚樹氏は少子化対策として、冗談めかしながら、「30超えたら子宮を摘出する」といった発言をしていました。
動画出典:FNNプライムオンライン
【物議】「30超えたら子宮摘出手術」「25歳超えて独身は結婚できない法律に」日本保守党・百田尚樹代表が“問題発言”で謝罪
これは、百田氏が少子化対策を「育てやすい社会を作ること」だとは考えておらず、「女性に子供を産ませる」ことだと考えていることの証左でしょう。
また、百田氏の言動からは、「少子化は生まない女性のせいで加速している」という考えが透けて見えます。
女性に対する「子供を産め」という社会的圧力がありながらも、「いかに産み、育てやすい社会を実現するか」の議論は遅々として進んでいないのです。
希望が持てない社会、性差別が放置されている社会、経済的に苦しい社会に生きる大人が、子供を産み育てることに希望が見出せないのは、ある意味自然なことだと言えるでしょう。
選択子なし夫婦「DINKS」を選ぶ理由って何?
次に、DINKSを選ぶ理由について確認しておきましょう。
経済的に難しいから子なしを選択する
近年、日本では学費の高騰など、子育てに関する費用が増加しています。また、賃金も上昇していません。
それゆえ、子供を持つことが経済的なリスクとして捉えられるようになりました。
多くの親は「自分が受けた教育と同程度以上の教育を受けさせたい」と考えます。自分たちの世代では、子供に満足な環境を提供できないと考えた場合、子供を持つことに積極的になれない人も少なくないのです。
そもそも子供を持ちたいと思ったことがない
「全ての夫婦は子供を持ちたいと思っているはず」というのは幻想です。中には子供を持つことを最初から考えていなかった人もいます。
子供を持ちたいと思っている人にとって「なぜ子供を持ちたくないの?」と疑問に感じるかもしれません。しかし、それは、子供を持ちたい人に「なぜ子供を持ちたいの?」と聞くのと同程度野暮なことだと言えるでしょう。
そもそも、母親や父親になることに全く興味がない人も存在します。
子育てよりやりたいことがある
趣味の活動や仕事、ボランティア活動など、子育てよりもやりたいことがあり、子育てに使う時間やお金が捻出できない、したくない、という人もいます。
人生におけるプライオリティが何かは人によって異なります。中には、夫婦ふたりでいることが幸せだから、という理由で子育てを選ばない人もいるでしょう。
子なし夫婦はムカつく?DINKSがバッシングされるのは理由
選択子なし夫婦に対して、時折否定的な意見が寄せられることもあります。その背景には、以下のような理由が考えられます。
「子育て=選択ではなく義務。成熟するために必須」という考え方
世の中には、子供を産み育てるのは、選択ではなく義務であり、義務を果たしていないDINKSはムカつく!という人もいます。
出産や子育てを義務だと考える人は、
“ちゃんと”子供を育てている人は偉い
子育てをしていない人は、(義務を怠っているため)わがまま、幼稚!
だと考えるのです。
子供を持っていない人にも、こういった考えを内面化している人はいて、
子育てを経験していないから自分は未熟なのかも
子供を産んでなくて申し訳ない
と考える人もいます。
「自分は大変なのに、子なし夫婦は楽をしていて、ずるい」という嫉妬
DINKS夫婦は、子育て世帯よりも経済的にも時間的にも余裕があると見られがちです。
特に、育児で忙しい夫婦からは、
「自由で羨ましい」「なんだかずるい」
と思われることもあり、そういった思いが嫉妬や不満につながることがあります。
「少子化問題を解決せよ」という社会的プレッシャー
子供を産み、育てることが社会の義務だと感じている人から見ると、DINKS夫婦の選択は「わがまま」や「自己中心的」に映ることがあります。
しかし実際、DINKSは経済的問題や不平等、産み、育てにくい社会の影響で、「本当は子供が欲しいけれど、今の社会では厳しいからやめておこう」と理性的に判断しているケースが多いのです。
DINKSに対するバッシング。どう対処したらいい?
夫婦でDINKSになることを選んだのち、周囲からバッシングを受けたり、偏見の目で見られたりすることがあるかもしれません。そういった場合、どのように対処すればいいでしょうか?
子なしの理由は説明しなくてもいい
なぜ子供を持たないの?
という質問にうんざりしたら、いちいち真摯に受け応えする必要はありません。「これが私たちのライフスタイルだから」と答えましょう。しつこい場合は、「なぜ子供を持ちたいの?」と相手に聞き返してみるのも一案です。
同じ価値観を持つ仲間と話をする
バッシングを受けたら、同じ価値観を持つ人たちと思いを共有し、気持ちを吐き出しましょう。一人で溜め込んでいると、疲弊してしまいます。
自分に嘘をつかない
自分に嘘をつかないことも大切です。
もしかしたら、DINKSバッシングがつらいのは、そのバッシングの内容を、自分自身も内面化しているため、苦しいのかもしれません。
例えば、
女性の幸せは子育てなのに、なぜ子供を持たないの?
という質問がウザいのは、「もしかしたら、子供を持つことが幸せなのかも」という思いがほんの少しあるからなのかもしれません。
そういった思いがあるのなら、その思いを否定せずにじっくりと向き合いましょう。それでもやっぱり、私は子供を持たない生活のほうがいい、という結論に達するかもしれませんし、経済的に苦しいけどやっぱり子供が欲しい、と思うかもしれません。
どんな結論になるにせよ、じっくりと自分の心と向き合い、答えを出すことが大切です。
これからライフプランを設計する女性へ。考え方のヒント
最後に、ライフプランを設計する際に使える考え方のヒントを紹介していきます。
自分の価値観を見つめ直す
どんな生活を望むのか、じっくり考える時間をとりましょう。他人の期待や社会の期待に基づいて考えるのではなく、自分の価値観に基づいて決断することが大切です。
夫婦で老後に備え、経済的な計画を立てる
DINKSを選ぶ場合にも、老後の資金計画は重要です。
パートナーと価値観を確認し合う
結婚前に、子供を持つか持たないかについて、パートナーとよく話し合うことが大切です。とくに「子供は絶対に欲しい」「子供は絶対にいらない」と考えている場合、結婚後に価値観が変わることは稀です。
さいごに。自分たちの人生をどのように設計するかは、夫婦の自由
昨今、DINKSは珍しくなくなっています。
しかし、日本社会ではまだまだ女性に出産を望む社会的圧力が強固であり、DINKSは「未熟」「わがまま」と言う人もいます。
産むべきか迷っている女性に、
心配しすぎ、産めばなんとかなるよ
と声をかけてくる人もいるかもしれません。
しかし、そういった非難やアドバイスをする人は、あなたが子供を産んだ後、助けてくれるでしょうか?もし何もしてくれる気持ちがないのなら、そういった言葉は、無責任なヤジに過ぎません。
他人の意見に惑わされることなく、自分たちの価値観に基づいてライフプランを設計することが大切でしょう。
DINKSは選択肢の一つであり、子供を持つと決めることと同様に、責任ある決断です。自分たちの人生をどのように設計するかは、夫婦の自由であり、誰にも干渉されるべきではありません。