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現代劇だけど歌舞伎? 唯一無二の木ノ下歌舞伎『勧進帳』

Date
2023/10/31
Writer
永井槇
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(永井撮影)

2010年に初演、2016年に再創作、2018年には日仏友好160周年記念「ジャポニスム2018」の一環としてフランス公演も行われ好評を博した木ノ下歌舞伎『勧進帳』。
待望の再演は東京を皮切りに全国7都市ツアー公演が行われています。

木ノ下歌舞伎(通称“キノカブ”)とは?

出典:@geigeki_info
https://twitter.com/geigeki_info/status/1705096296393310245/photo/1

歴史的な文脈を踏まえつつ、現代における歌舞伎演目上演の可能性を発信する団体が木ノ下歌舞伎です。
監修・補綴を行う主宰の木ノ下裕一さんが、作品ごとに現代の上演に最適な演出家を招聘して公演を行っています。

今回の『勧進帳』の演出・美術には杉原邦生さんを迎え、杉原さんが現代語訳した台詞が特設客席(一部劇場は通常客席)を激しくポップに飛び交います。

古典歌舞伎の台詞は現代の私達にとっては馴染みのない言葉ですが、当時の人にとっては当時の現代劇。
つまり、あらゆるアプローチを駆使して江戸時代に初演を見ていた観客の雰囲気を“今”に再現しようとしているのです。


古典作品や歌舞伎に興味はあるけれど、いきなりはちょっと……という方に特におすすめです。
現代劇を観ているのに、間違いなくそれは歌舞伎の世界という唯一無二の不思議な観劇体験ができます。

『勧進帳』の関=境界ととらえた物語

『勧進帳』
鎌倉幕府に追われ、山伏に変装して向かっていた東北へいた源義経一行。
関所で役人富樫に疑いをかけられ、武蔵坊弁慶が白紙の巻物を勧進帳に見立てて読み上げる。
義経本人であると発覚しそうになり、弁慶が主君である義経を杖で何度も打ち付ける。
主人を傷つけてまで守ろうとする弁慶の命がけの忠義に対し、富樫は幕府の命令に背き一行を通す。

関所での激しい攻防を“境界=ボーダー”と解釈された、キノカブ版『勧進帳』はより物語の奥深さを感じさせ、現代の私達に響くのです。

支配と服従、真実とフェイク、ジェンダー、格差……。

境界による対立から共存の道を探りだすという物語は古典作品が持つ普遍性を現代に示しているともいえるでしょう。

バリアも“越境”

視聴覚障害のお客様のための字幕提供や音声ガイドを東京だけでなく他の6都市公演でも実施予定です。

東京公演では、字幕提供公演後聴覚障害の方と、音声ガイド提供公演後視覚障害の方とそれぞれ感想や質問を受ける「深める会」を設けたり、とても画期的でエシカルな取り組みだと感じました。

また、東京公演、沖縄公演では全公演ヒアリングループと呼ばれる磁気ループ(舞台の声や音を大きくするサポート)が実施されました。

実施内容は各の劇場により異なるので各劇場に問い合わせが必要になりますが、観劇に興味あるけれど障害があってと二の足を踏んでいる方はこの機会にぜひ。

「歌舞伎と現代劇の“あわい”を行き来するミクスチャープレイ」とコピーライトされたこの作品、

舞台上も同じ人が義経の家来と富樫の部下を演じ分けていたり、様々なボーダーを超える体験ができます。

東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』

東京公演:9月1日(金)~24日(日)東京芸術劇場シアターイースト
沖縄公演:9月29日(金)~10月1日(日)那覇文化芸術劇場なはーと 大劇場
長野公演:10月7日(土)8(日)サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター)大ホール
岡山公演:10月14日(土)15日(日)岡山芸術創造劇場 ハレノワ小劇場
山口公演:10月21日(土)22日(日)山口情報芸術センター スタジオA
茨城公演:10月27日(金)28日(土)水戸芸術館 ACM劇場
京都公演:11月4日(土)5日(日) 京都芸術劇場 春秋座

出演:リー5世、高山のえみ、坂口涼太郎、岡野康弘、亀島一徳、重岡漠、大柿友哉

木ノ下歌舞伎公式サイト『勧進帳』

https://kinoshita-kabuki.org/kanjincho_2023

東京芸術劇場公式サイト
https://www.geigeki.jp/performance/theater331/

木ノ下歌舞伎公式X(旧Twitter)
https://twitter.com/KINOSHITAkabuki

Writer's Profile
永井槇

大学卒業後、国語学会で学術雑誌の編集と秘書を兼任。その後、放送作家と並行してテレビ局、制作会社で番組制作を行う。演者側だった学生時代から継続して様々な形でエンタテインメントに関わる。現在は書く仕事に加え、講師、カフェスタッフ等パラレルワーカー。原則、メディアと明かさず自費で情報収集することで媚びない正直な記事を目指す。得意分野はエンタメ・ビューティ・美味しい。

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