受験勉強による「脳の疲れ」どうする?効率的な勉強方法と脳疲労のケア方法を解説!

最近「脳疲労」というキーワードが様々なメディアで取り上げられています。
脳は常に全身から送られたすべての情報を処理して必要な指令を出すことで人間の生命活動を維持していますから、休む暇がありません。

この連載では、超多忙な脳を少しでも良い状態に保つコツを、テーマ別にご紹介していきます。
第一回目のテーマは「受験と勉強」について。脳科学に基づいた「ブレインヘルス」をテーマに研修や講演を展開していらっしゃる臨床心理士・公認心理士の成田有子さんにお話をうかがいました。

目次

「脳疲労」とは何か?

私たちは「胃が疲れた」など、自分の臓器が疲労している状態を表現することがあると思います。脳も内臓ですので、当然使いすぎると疲労します。脳は常に人体の生存をかけた指令を出し続けるために基本的には省エネを心がけていて、省エネに逆らった使い方が脳疲労につながります。

脳疲労につながる原因はストレスや生活習慣などたくさんありますが、勉強に関して言うと「同じ勉強(暗記なら暗記だけ)を長時間ダラダラと続ける」「目標を立てずにズルズルとながら勉強をする」というような事をしていると脳が疲労します。


脳が疲れない、効率的な勉強の方法について


勉強する内容によって、脳のどこを使うかは変わってきます。

暗記であれば記憶を司る海馬、問題を解くのであればソリューションを提供する前頭葉を主に使います。

長い文章を読む場合は多くの部分を複雑に使います。長い文章を読む際には黙読していても、文章の意味や文脈を理解するために、主に「聞く」ことに関わる左脳のウェルニッケ野を使います。そして、文章を理解し、それに対する適切な反応をすることや文章を生成するためには、主に「話す」ことに関わる左脳のブローカ野を使います。

その他にも前頭前野のワーキングメモリーで話の伏線についてふりかえり、登場人物に感情移入するときには大脳辺縁系を使うなど、広範囲で脳を使います。

基本的には同じような勉強を続けていると脳が同じネットワークばかりを使う情報処理をするため脳が疲れてしまいますので、同じような勉強を何時間も続けるのはおすすめできません。同じような勉強をしていると「飽きた」と感じることがあるかと思いますが、それはひとつの脳疲労のサインだととらえ、いったんやめて他の勉強をするといいかもしれません。栄養バランスの良いお弁当のように、暗記、問題を解く、長文を読む、などを交互にやるとよいでしょう。

暗記に関しては、エビングハウスの忘却曲線によると、人は4時間後には暗記したものの半分くらいを忘れてしまいますが、脳から消えてしまうわけではなく復習することで定着するとのことです。むしろ暗記の勉強をした後は、他の勉強をするなどしてしばらくたってから確認テストをしてみるなどの復習をしたほうが効果的ということですね。

なお、感情移入できるような長文を読むことは先にお話しした通りに脳の様々なところを使うため、比較的長時間でも良いと思います。しかし、いくら脳を広範囲に使うとはいっても、感覚器官としては視覚のみを使っているので、音楽を聴く、美味しいおやつを食べる、好きなアロマの香を嗅ぐ、など他の五感を楽しませる休憩をすると脳疲労が癒され効率的に勉強ができます。

ちなみに、語学の学習は、灰白質の密度が高まったり海馬の体積が増加したりするという研究結果もあり、年齢に関わらず勉強すること自体がとても脳によいとのことですから、大学受験だけでなく社会人になっても語学検定などに挑戦するのはブレインヘルスの観点からもとても良いことだと言えます。

語学の効率的な勉強について共通して言えることは、読むだけでなく、話す、聴く、書く、などできるだけ多様な感覚器官を使って、脳内で多くのネットワークを活性化させることです。なるべく脳をバランス良く使って、脳疲労を防ぎましょう。

脳を効率的に使える勉強の時間配分については、色々な説があります。長いところでは90分で一区切り、短いところでは集中力が持続できる5分で区切るという説もあります。25分勉強したら休憩を5分で1セット、4セットやったら30分の休憩をとる方法もポピュラーです。年齢や勉強の内容にあわせて、ご自分にあう時間配分をみつけてみてください。時間を区切ることで、いつ休憩しようかという雑念が浮かぶことも無くなり、次の休憩までここまでやろう!というモチベーションも上がります。ただし、ここで重要なのは、休憩の取り方です。スマホを見て過ごすとさらに情報のインプットが続き、目の疲れも取れませんので、短い休憩ではスマホから離れて、立ってストレッチをしたり、窓から外を眺めて目を休ませたりするといいと思います。長い休憩では散歩をしたり、おやつを食べたり、五感を使ってリラックスしましょう。


脳を疲れさせない睡眠方法


脳の疲労物質は良質な睡眠によって排出されます。そして、記憶を整理して必要なものを長期記憶に保存してくれます。まさに、睡眠は脳の清掃&お片付けタイムだと言えます。

良質な睡眠は
・レム/ノンレム睡眠をワンセットとして、4~5サイクル
・6~8時間
を目安に取れると良いと言われています。

ちなみに野球の大谷翔平選手の睡眠時間は10時間以上と言われています!あの素晴らしい頭脳、身体機能、精神力は良質な睡眠が作っているのでしょうね。

平均的な睡眠時間は世界では7~8時間、日本では6~7時間と言われています。日本は睡眠時間が少し短い傾向にあるようです。

また、平均睡眠時間が6時間未満の「ショートスリーパー」と呼ばれるタイプも一定数います。なるべく多くの勉強時間を確保したいということでショートスリーパーに憧れる方もいるようですが、脳に必要な睡眠時間には個人差がありますから、やみくもに睡眠時間を削るのは危険です。

ただ、時には睡眠時間を削らなければいけないこともあると思います。その場合は起床時間を通常と一緒にしたほうが良いです。起きる時間をいつもよりも2~3時間前後にずらすと、メンタルにも脳にも負担がかかります。寝たりない場合は短いお昼寝をすると良いでしょう。


私の脳は疲れている…?「脳疲労セルフチェック」

さて、これまで「脳疲労」と勉強の関係についてお話ししてきましたが「自分の脳が疲れているかどうかわからない」という方も多いと思います。ここで「脳疲労セルフチェック」をしてみましょう。

「脳疲労セルフチェック」

現在のあなたの様子を教えてください。

■カラダ
□なんとなくだるい、疲れが取れない
□肩~首がこる、頭が重い、
□眠りが浅い、よく眠れない
□目が疲れる、視界がぼやける

■ココロ
□イライラしやすい、怒りっぽくなっている
□やる気がでない、
□集中力がない
□もの忘れが増えた、記憶力が落ちた

■行動
□小さなミスや勘違いが多くなっている
□朝起きられなくて遅刻や欠席・欠勤が増えた
□思わぬところに体をぶつける、小さなケガをする
□食べ過ぎ、飲みすぎ、たばこの吸い過ぎなど、飲食、嗜好品への依存度が高まっている

あなたはいくつの項目にチェックが入りましたか?
カラダ、ココロ、行動、それぞれで1項目以上チェックが入った方は、脳疲労かもしれません。以下のような生活習慣がないか、ふりかえってみてください。

■生活習慣
□日によって起床時間に2時間以上のズレがある、休日に寝だめする
□夜更かししてしまうことが多い、昼夜逆転することがある
□スマホを長時間見ていることが多い、休憩時間や寝る前もついついスマホを見てしまう
□マルチタスク(ながら作業)が多い

心当たりがある方は、ぜひ生活習慣を見直してみてください。


受験生の皆様へアドバイス

食事


脳にとって、バランスの良い食事を決まった時間にとることはとても重要です。決まった時間に食事をとることで生活のルーティンができ、精神の安定や十分な睡眠時間の確保につながります。

朝ごはんはしっかり食べてください。特にビタミン、たんぱく質を積極的に摂ると良いので例えば、たまご焼きとごはんとお味噌汁というような「ザ・日本の朝ごはん」というようなメニューや、フルーツを添えたヨーグルトとハムサンド、などがおすすめです。もし手軽におにぎりを買うような場合は鮭やシーチキンなどのたんぱく質が入ったものにするのもいいですね。


他に脳の健康に良いと言われているのはオメガ3を含む食材、たとえば青魚やクルミなどです。オメガ3は自分の身体で作り出せるものではないので積極的に摂りましょう。サプリでも良いですが、食材を使い料理することで水分も補えますし、素材に含まれる他の栄養素も摂れます。オメガ3の入ったアマニ油やえごま油などを常備しておいて、サラダやヨーグルトにさっとかけて食べるのもいいかと思います。


夜食はうどん、雑炊などの消化のよいものが良いでしょう。脳を使うと糖を欲するので、消化の良い炭水化物を摂ることは理にかなっています。寝る直前ではなく、少なくとも寝る2時間以上前の、「よし、もうひとがんばり!」と気分の切り替えやモチベーションを上げたいタイミングで食べるようにしましょう。ただ、お腹いっぱいになると眠くなるので量はほどほどに。眠気防止にコーヒーを飲む方もいると思いますが、睡眠の妨げになる場合は控えたほうが良いでしょう。

環境

自分の部屋で勉強する人もいれば、リビングで家族がいる中で勉強する人もいると思います。場所はどこであれ、自分が安心できる基地のようなスペースを確保してルーティンに組み込めると良いです。例えば、最初は自分の基地部屋で暗記して、飽きてきたら家族のいる部屋で読解問題をする、など。

また、どうしてもモチベーションがあがらない、勉強に手を付けられないという時はまずデスク周りの片づけから始めてみてください。片づけをすることで脳も整理整頓されて“やる気スイッチ“がはいりやすくなります。いきなり勉強に着手せず、一日のタスク整理をしてお気に入りのメモ用紙や付箋紙に書き出して、見通しをたてることもおすすめです。一つタスクが終わるごとに線を引いたりチェックを入れたりしていくと、達成感を感じることができて、快楽物質と言われるドーパミンが分泌され、さらに勉強が楽しくなります。

音楽を聴きながら勉強する人もいるかもしれません。自分なりにモチベーションが上がる音楽を見つけておくと良いですね。また、小川が流れる音や鳥の鳴く声などの自然音は、集中力、認知力を高める効果があると言われています。日本語の歌詞の入った音楽は歌詞に気がとられるので、個人差はありますが勉強中はあまりおすすめできません。

勉強していてそのままソファやコタツで寝てしまう、という方がいるかもしれませんが、良い睡眠をとるには、快適な寝具で部屋を暗くして眠りにつくのがベストです。ましてやテレビをつけっぱなしで、という状態は避けましょう。人間の声を聴いていると交感神経が優位になり深い眠りに入るのを邪魔する可能性があるからです。

受験勉強中は感情的にも不安定になりがちです。感情をコントロールするには、自分の部屋でお気に入りのお香を焚いたり、アロマをティッシュに数滴垂らして気分をリフレッシュするなど、香りを活用するのも良いでしょう。やる気が出ないときは柑橘系やローズ、イライラして勉強に手が付けられないときはラベンダーや森林系の香りがおすすめです。


受験シーズンには季節性のうつにも注意


毎年秋から冬(10月頃から3月頃)にかけてうつの症状が出る、いわゆる冬季うつに日本の人口の2%がかかると言われています。秋~冬は日照時間が少なく、太陽光を浴びる時間が減り、脳内のセロトニンが減るために発症すると言われています。セロトニンには、メンタルを安定させたり、朝起きたときに体を活動状態にしてくれたりする重要な脳内物質です。なので、秋冬になって気持ちが滅入りがちな受験生の方は、午前中に太陽光を直接浴びることをおすすめします。

冬季うつの治療法として「10,000ルクスの光を1時間ほど浴びる」と良いと言われていますが、具体的に言うと起床後3~4時間以内に最低でも15分は外に出て、太陽の光をたっぷりと浴びてください。曇り空でも大丈夫です。セロトニンを増やす食材、バナナや豚肉赤身の肉などを食べるのも良いですね。豚肉はセロトニンを増やすトリプトファンが豊富な食材として有名なので、夜食にはちょっと重いかもしれませんが、昼食や夕食に縁起の良い「カツ(勝つ)丼」はおすすめです!


受験生の周りの方々へ向けたアドバイス

コミュニケーションで幸せホルモンを

感情を安定させるオキシトシンというホルモンがあります。オキシトシンは哺乳類特有のホルモンで、授乳時や、他者から撫でられたときや、良い関係が築けたときにでるものです。そのため幸せホルモンとも呼ばれています。(ちなみに前述のドーパミン、セロトニン、そしてこのオキシトシンの3つが幸せホルモンとして有名です。)

本当はスキンシップが良いのですが、思春期の受験生には嫌がられることも多いと思います。代わりにできることとしては、「目を見て良質なコミュニケーションをとる」ことです。目をしっかりとあわせて「お疲れ様!調子はどう?」といった他愛ない会話をとるなど、受験生にオキシトシンがでるような温かな関わりを心がけてください。

なお、オキシトシンは親子関係だけでなく、他人との良好な関わりでも放出されます。友達や学校の先生はもちろん、ペットが相手であっても。ペットがいなければモフモフしたぬいぐるみを抱きしめたり撫でるのも良いそうです。

「先回り」はやる気を奪ってしまう

「勉強、ちゃんとやっているの?」「はやく勉強しなさい!」と言ったことがきっかけで親子喧嘩が始まることがあると思います。人間は自分で決めたことをやり遂げた時に、ドーパミンが出てモチベーションがさらに高まります。なので、こういった「先回り」した問いかけは本人のモチベーションを奪うことになり逆効果です。

ちゃんと勉強しているか心配、どうしても状況を聞いてみたい、という場合はオープンクエスチョンの質問系でのコミュニケーションがおすすめです。例えば「今週の目標は?」と聞いて、自己決定を促してから承認する。さらに「目標が達成できたら美味しいものでも食べに行こう!」など、報酬を具体的に挙げることで更にモチベーションは向上します。

脳を理解してラストスパート!

受験はご本人も周りの方もつらいことも多いですが、夢をたくさん持って、諦めずにラストスパート!ぜひ、本記事を参考に、今できることに集中して、つらい時期を乗り越えてくださいね。

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この記事を書いた人

臨床心理士・公認心理師 株式会社ユナイト 代表取締役
「健康って何だ?」という身体への強い関心からボディワーク、ヒーリング、臨床心理学、という順に学びの世界を広げてきました。
臨床心理士となってからは、心療内科や婦人科の心理カウンセラー、高校のスクールカウンセラー、国立の研究所のメンタルヘルスカウンセラーとしてカウンセリングの臨床体験を積みつつ、企業や支援機関で人材育成や組織開発の研修を行ってきました。大学で「対面コミュニケーション論」の講師もしています。
株式会社ユナイトでは、組織の健康において大きな位置を占めつつも目には見えない「心」の領域で組織のウェルビーイングに貢献できるよう、メンタルヘルスやハラスメントの外部相談窓口などを通して、心の専門家と組織をつなぐサービスをしています。

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