最近「脳疲労」というキーワードが様々なメディアで取り上げられています。
脳は常に全身から送られたすべての情報を処理して必要な指令を出すことで人間の生命活動を維持していますから、休む暇がありません。
この連載では、超多忙な脳を少しでも良い状態に保つコツを、テーマ別にご紹介していきます。第二回目のテーマは「更年期と脳疲労」について。脳科学に基づいた「ブレインヘルス」をテーマに研修や講演を展開していらっしゃる臨床心理士・公認心理師の成田有子さんにお話をうかがいました。
「更年期」のメンタル不調と脳の関係
更年期とは、閉経前後の約10年間のことで、女性なら誰にでもある「期間」のことです。ただし、更年期障害というと、その症状や重さは人によって様々で、誰にでも起こるわけではありません。医療機関を受診する方が1割未満、受診はしないけれど自覚がある方が3~4割ということです。
※参考資料 博報堂「更年期に関する生活者意識調査」https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/106300/?fbclid=IwAR2qrOZSd8BJdo71euVR8CsvFMW44D135HJrX7OvoPPPBXWTaBDS6yvznmk#
私は婦人科でもカウンセラーをしているのですが、お話しをお聴きしていて思うのは、更年期障害を自覚している方の多くが、メンタル不調も感じていらっしゃるということです。具体的には、イライラ、落ち込み、自信喪失、集中力低下、やる気が出ない、グルグル思考、などです。更年期障害の一つである不眠が、さらにこれらを悪化させる場合もあります。
更年期の女性の脳で何が起きているかというと、主には女性ホルモンの減少なわけですが、これに環境要因と年齢からくる心理状況が重なると、脳疲労状態になってしまうと考えられます。
環境要因で言うと、更年期の女性はライフ(家庭)においてもワーク(仕事)においても、たくさんのタスクとストレスを抱えています。
ライフの面では、子供がいる方は育児が一段落したものの、子どもの受験や就職で気を揉んでいる人も多いようです。子供がいない方も、自分自身の老化に伴う健康不安や、将来不安や、介護や相続など、人生後半にきて初めて経験することも色々とでてきます。最近は熟年離婚率も上がってきているようですが、離婚や再婚などは非常に大きなストレスがかかります。
ワークの面では、責任ある役職についたり、部下を指導したりケアする事が増えたりして、プレッシャーが増えることもあります。そうでない場合も、身体的には老化が始まっているのに若い人と同じような業務や作業量をこなさなくてはならなくて、キャパオーバーになることもありますよね。
このように、更年期は社会環境的にも、かなり“しんどい”時期にさしかかっているのではないでしょうか。
さて、ここで脳疲労の話しになりますが、脳疲労とは「情報処理が過多になり、脳が疲れた状態になること」です。脳疲労が、性別や年齢を問わずメンタル不調の大きな要因になっていると言われていますね。具体的には、たくさんのタスクを同時に抱えて過労気味の人や、体を動かさないでずっとパソコンに向かって仕事をしているような人がなりやすいと言われています。更年期の女性は、ライフでもワークでも大忙し!いつも頭の中には次の予定や心配事がグルグル。まさに、脳疲労を起こしやすい年代だと言えるでしょう。
更年期は、そもそも脳の中では女性ホルモンの急激な減少という大事件が起きており、それにプラスして環境要因からくる脳疲労も・・・となると、さすがにやる気が起きなくなるどころか、メンタル不調になってしまう恐れもあります。
さらに、SNS全盛の今、放っておいても情報がいっぱい入ってきてしまうので、周囲のことが気になります。同年代の人や友人の投稿をみて、自分や家族の現状と比較して落ち込んでしまったりすることもあり、ますます脳が疲れてしまいます。更年期障害の症状を感じる時は、SNSとはほどほどの距離をとりたいものです。
人生の午後三時には幸せホルモンのセロトニンを味方につけて
心理学者のエリクソンが提唱したライフサイクル論では、更年期はライフステージの「壮年期」にあたり、獲得したアイデンティティをもとに次世代に知識や技術を伝達する時期だと言われています。それがうまくいけばいいのですが、このステージで行き詰まると、停滞感を感じて気持ちが落ち込んでしまいます。また、深層心理学で有名なユングのライフサイクル論では、更年期は、「中年期」にあたります。ユングは人生を4つのステージに分けて、時計で表現したので、中年期から老年期に移り変わる境目の時刻を午後三時としました。“人生の午後三時”は、正午を過ぎて夕方に近づく、夜はまだだけど確実にこれから夜が来るのだという不安に直面する時期なのです。
「更年期ロス」という言葉がありますが、更年期には、生殖ができなくなるという機能ロスの他にも、身体機能の衰えからできることが減ってきて、活動の範囲が狭くなることでの体験ロスによっても、人生の午後三時の悲哀や不安を増長させ、ストレスもたまりやすくなります。
人生の午後三時を、無事に乗り切って、ライフサイクルのプロセスを充実感と幸福感の中ですすめていけるようにするにはどうしたらいいでしょうか?
そこで役に立ってくれるのが、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンです。
実は、更年期に女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が低下すると、セロトニンも減少してしまうそうなのです。
セロトニンが減少すると、うつっぽくなってしまったり、イライラしたり、さらには不眠に悩まされたりします。
しかし、適切な食事と運動、そして、日光を浴びることでセロトニン値をあげていくことができます。女性ホルモンは低め安定でも、セロトニン値を自分でコントロールできるようになると良いですね。セロトニン値が上がると、質の良い睡眠を促すメラトニン値も上がるそうなので、不眠の解消も期待できます。
脳疲労やセロトニンについては前回の記事で紹介しています。受験生向けの記事ではありますが、ご活用いただける内容ですので、ぜひチェックしてみてくださいね。
腸活で更年期のつらさを和らげられる?
更年期障害に多い症状のひとつに“便秘”があります。
更年期には自律神経が乱れやすく、本来は排便時には副交感神経が優位になるべきところを、交感神経優位のままになってしまって便秘になりやすいのです。便秘になると気分も落ち気味になってしまうので、メンタル不調に拍車がかかってしまいます。
毎日の規則正しい排便は、大腸がんなど他の様々な病気を防ぐためにも重要ですし、更年期のメンタル不調の予防という観点から見てもとても重要だと言えます。なんと、快便時には幸せホルモンのセロトニンも腸から分泌されるそうです!
「腸は第二の脳」「脳活は腸活から」などと最近よく言われますが、生き物の歴史という観点から言えば腸のほうが古くから存在しているので、腸活は脳活の基礎となるものと言ってもよいでしょう。
更年期世代の女性の朝は何かと忙しく、トイレにゆっくり入る時間がとりづらいかもしれませんが、気持ちよく排便をする時間を是非作っていただきたいです。また、外出先でトイレが汚いとつい我慢してしまう…という経験は誰でもありますよね。ご自宅でも同じですので、トイレを常にきれいにしておくなど環境を整えることも大切です。
大便の量は、野菜を適量摂取できている人や運動を定期的にしている人は1回で約500g出るそうです。しかし日本人の平均は100~150gと少なく、女性では100g以下という方も。
排便量を多くするためには、繊維質が多いバナナはおすすめです。バナナはセロトニンのもとになるトリプトファンが含まれていますから、脳にも腸にも良いですね。
同じく繊維質が多く、女性ホルモンに似た栄養素イソフラボンが入った「おから」にも、認知症予防効果があるとされるレシチンも入っていますので、おかずやお弁当におすすめです。
更年期とうまく付き合っていこう
更年期のメンタル不調としては
・やる気が出ない
・これまでできていたマルチタスク(家事や仕事をてきぱきと回す)ができなくなる
・感情のコントロールができなくなって怒りっぽくなったり、落ち込みやすくなる
・集中力、判断力が鈍る
・外出などが面倒くさくなり、ドタキャンしがちになる
などがあります。
しかし、更年期は見た目にはわからないことが多く、周囲の人を心配させたり、不快にさせてしまう可能性もあります。
そんな時は、自分から「更年期の症状で、細かいことが少し苦手になってしまって…」など、自分の変化を説明しておくのも良い方法です。周囲の人が「理解してくれている」という安心感があることでストレスが減りますし、人にどう思われているか、どう評価されているかなどとグルグル思考にはまってしまうことによるストレスが減ることで脳疲労も改善されると思います。
更年期障害の心配がある方は、まずは婦人科で検査を受けることをお勧めします。女性ホルモンの数値によっては、ホルモン補充療法、漢方薬の処方など様々な方法で対処が可能ですし、医師による診断により、自分が納得できると同時に、周囲にも理解を求めやすくなります。
誰にでも訪れる更年期、うまくつきあっていきましょう!