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近年、ネット空間を中心に「弱者男性」という言葉を頻繁に目にするようになりました。「弱者男性」はネットから生まれたスラングで、社会的、経済的に弱者の立場にある男性のことです。そもそもは、「自分は弱者男性である」と自認、自虐するために生まれた用語ですが、現在は、他人を揶揄するための言葉としても使用されています。

「弱者男性」の多くは、女性との恋愛がうまくいかず、友人も少ないため、社会から孤立していると感じているケースが多いようです。今回は、俗にいう「弱者男性」とはどういった男性を指すのか、「弱者男性」が「弱者男性」を自認する、または他者からそう呼ばれるようになったのは自己責任なのか、について解説していきます。

「弱者男性」は自己責任? 「弱者男性」を「弱者男性」たらしめる要因とは

「弱者男性」が「弱者男性」になってしまったのは、自己責任なのでしょうか。結論からいうと、自己責任ではありません。なぜなら、「弱者男性」が直面する問題は、必ずしも個人の責任だけに帰結するものではないからです。以下で、「弱者男性」が「弱者男性」となる要因について解説していきます

「弱者男性」が発生する要因1 資本主義による競争社会・格差社会の激化



現代の資本主義社会では、競争が激化し、経済格差が広がっています。東大生の親が高収入である確率が高いことは有名ですが、いわゆる実家が太い子どもは、高度な教育を受ける機会が増え、そのため、高収入を得やすい仕組みになっています。

家庭環境などが原因で十分な教育や職業訓練が受けられなかった人は、経済的に不安定な状況に陥りやすくなります。また、充分な教育を受けられなかった人々は、社会的なサポートネットワークにつながる方法もわからず、孤立感が強まる傾向にあるのです。

「弱者男性」が発生する要因2 長年続く不況。雇用の不安定化

バブル期以降、「失われた30年」と呼ばれる長期にわたる不況が続いています。また、2000年代初頭には、小泉政権下で派遣労働が推進されるようになり、正社員比率は下がっていきました。当初、派遣は女性が主な労働者でしたが、現在では男性も派遣労働者になることが珍しくなくなっています。国全体で非正規労働の増加を推し進めた結果、望むと望まざるとに関わらず、不安定な雇用状態にある労働者が増加していったのです。低収入や不安定な雇用状況は、自己肯定感を低下させることは言うまでもありません。

女性の場合、日本は男女の賃金格差が大きい国ですから、そもそも高収入を得られている女性は一握りです。しかし男性の場合、いまでも企業のトップの多くが男性が占めるという現状ですから、他の男性と自分が置かれている立場を比較し、劣等感を抱きやすい状況にあるのです。

「弱者男性」が発生する要因3 恋愛至上主義および、女性にケアを求める風潮

「弱者男性」のなかには、一度も女性と付き合ったことがないことを理由に、「弱者男性」を名乗る人もいます。恋愛や交際をしたいけれどできない人は男女問わず存在しますが、「弱者男性」は、女性と交際できないことを非常に重たく受け止めているようです。それは、女性との恋愛や結婚はマストであり、それができなければ、「真の男ではない」=「弱者男性」と考えているからでしょう。

「家庭的で可愛らしい女性と恋愛・結婚し、家事・育児をしてもらうこと」を理想とし、それが叶えられないのは、収入や容姿のせいであり、自分が弱者だからだ、という考え方は、非常に恋愛至上主義・異性愛中心主義的であり、性別役割を重要視する考え方です。

女性にモテなくとも、男性同士で感情を吐露しあえる仲間になったり、シェアハウスで仲良く暮らしたりといったライフスタイルを送ることも可能ですが、「弱者男性」たちがそういったルートを選ぶのは現在のところ、少数派です。

自称「弱者男性」たちが、相互にケアしあうことなく、女性(および女性からのケア)を求めるのは、個々人の性格というより、「社会や法律やメディアがそういった男性像をあるべきものとして描いてきた」ことが大きな要因だと言えるでしょう。

「弱者男性」に見られがちな特徴とは?

次に、「弱者男性」に見られがちな特徴について確認しましょう。

「弱者男性」によくある特徴1 低い自己肯定感

「弱者男性」は、様々な社会的要因や、内的要因により、自分自身を肯定的に評価できないため、自信を持つことが難しい傾向があります。自己肯定感が低いがゆえ、新しいことに挑戦することも避けがちです。

「弱者男性」によくある特徴2 経済的不安

「弱者男性」は、安定した収入を得ることが難しく、経済的に不安定な状況に陥ることが多々あります。また、経済的不安定さが社会的孤立を引き起こす、という負のループが生まれがちです。

「弱者男性」によくある特徴3 社会的孤立

「弱者男性」は自信やお金のなさから、友人付き合いを避けがちです。それゆえ、周囲の人とのつながりが薄くなり、社会的なサポートネットワークが不足していることが多いようです。こういった孤立感が心理的な問題を深刻化させることもあります。

「弱者男性」によくある特徴4 恋愛や結婚から疎外されていると感じる

「弱者男性」は、恋愛や結婚に対して消極的であり、成功することが難しいと感じることが多いようです。これは、自己肯定感の低さや経済的不安定さが影響しています。また、容姿に自信が持てず、恋愛市場に踏み出せないケースもあります。

何個当てはまる? 「弱者男性」チェックリスト



さいごに、「弱者男性」チェックリストをご用意しました。いくつ当てはまっているかチェックしてみてください。

1自己肯定感が低く、自分の価値を感じることが難しいと感じる。
2経済的に不安定。安定した収入が得られず、経済的に困難な状況にある。
3友人や家族とのつながりが薄く、孤立感を感じる。
4恋愛や結婚に対して消極的で、成功することが難しいと感じる。
5自分は男性として本来得られるべき利益や権利をはく奪されていると感じる。

このチェックリストに3つ以上当てはまっている場合は、社会的に「弱者男性」とみなされる可能性がある、と言えるでしょう。

さいごに。「弱者男性」は、自己責任ではない

「弱者男性」になる要因は、個人的要因だけではありません。社会的、経済的要因が複雑に絡み合って誕生するのが「弱者男性」なのです。

「弱者男性」のなかには、「いまは男尊女卑よりも女尊男卑の時代」「女性のほうが生きやすかった」と発言したり、女性を叩いたりする人もいます。なぜ女性を叩きたくなるかというと、自分が弱者だという意識が根底にあり、「強者男性」や、政治家などの権力を持っている人に歯向かうことができないからでしょう。これは、アメリカで一部の白人が相対的はく奪感を感じ、移民を叩いている構図にとてもよく似ています。

しかし、「弱者男性」を作り上げているのは「弱者男性」から見て強者に見える女性ではなく、資本主義であり、男女の性別役割であり、不安定な経済状況を作り上げた政治家です。さらにそこにルッキズムや、レイシズム、障碍者差別などが複雑に絡み合い、「弱者男性」は作り上げられます。

「弱者男性」は社会全体が作り上げたものですから、自己責任だと切り捨てるのは、あまりに乱暴だと言えるでしょう。