鍼灸のキホン第8回目の今回は、前回から引き続き「鍼治療を行う際の流れ」について、続きをご紹介していきます。
鍼灸治療では、四診と呼ばれる4つの方法で診察を行うとご紹介しました。
今回は、四診の中の「聞診」について詳しく見ていきましょう。
聞くことで状態を把握する!?
聞くというと問診のことにように思えますが、問診とは異なります。
聞診は、聴覚と嗅覚により患者さんの体から発せられている「音」と「臭い」を確認し、患者さんの心身の状態を知る診察方法です。
「音」では、患者さんの声の性質(音声や話し方、呼吸音など)を確認していきます。
「臭い」では、体臭・口臭の臭いを確認していきます。
聞診は、問診を行っている際に同時に行われることがほとんどです。
そのため、問診で確認できない臭いについても、患者さんの感じる臭いで確認をしていきます。
声診
患者さんが話す時の音声や話し方から、心身の状態を知る診察法です。
発声には個人差や男女差があります。
健康状態では、発声は自然にのびやかであるとされます。また、気分の変化につれて声の調子が変わります。
声診は、音声の高さ、大きさ、声質、話すスピードなどから健康状態を判断します。
さて、東洋医学では、私たちの身体は陰陽のバランス状態が取れていることが、健康な状態だと考えます。
この陰陽のどちらか一方が弱くなっていたり、強くなりすぎている場合を、虚証と実証と言います。
身体の状態は虚証か実証かで、選穴するツボの位置が変わったり、鍼の刺し方が変わります。漢方では、調合される薬の内容も変わります。
同じ咳の症状でお悩みでも、上記の理由から治療方法がまったく別のものとなります。
この虚証と実証。
聞診でどのように判断するのか、ご紹介していきます。
声で自分の健康状態がわかっちゃう!?
患者さんのお話を聞きながら、身体の状態が虚証・実証のどちらかであるのかを判断していきます。
声の高さ
いずれも、「健康な状態の時と比較してどうか?」を基準にしてみていきます。
<虚証・痰湿>
・声が低い
<実証>
・声が高い
声の大きさ
声の大きさには、呼吸に関わる肺・腎が関係すると考えます。声の大きさに不調が出ている場合は、これらの臓に関連するツボなどが治療点となります。
<虚証>
・声が小さい
<実証>
・声が大きい
声質
<虚証>
・声が軽く清んでいる
<実証>
・重く濁る
話す声が混濁としてはっきりしないものは、中気(中焦の気)が正常な働きを失い、そこに湿邪が影響したものと考えます。
話し方
<虚証・寒証>
・ゆっくり話す
・口数が少ない
・無口
<実証>
・早口
・多言
・熱証
呼吸で診る身体のバランス状態
呼吸は、健康状態ではゆったりとして深く、雑音がありません。
呼吸の強弱や緩急を聞き分け、身体の状態を診ていきます。
呼吸には、肺と腎が深く関係します。
肺は呼吸を主り、腎は納気(収め入れる、固め取り込むという意味)を主る。
納気(のうき)作用とは、肺の主気作用によって取り込まれた大気中の清気を腎が摂納する機能をいいます。
つまり、呼吸の異常は肺・腎の失調、特に肺の問題であるものが多いと考えます。
呼吸の異常を、声と同様に証に分けてご紹介していきます。
<虚証>
・短気
息切れのことです。呼吸数が多く、呼吸が短く途切れるものを言います。
気虚、肺気虚と考えます。
・少気
呼吸が静かで浅く微弱。音声に力がないものを言います。
・欠
あくびのこと。口を大きく開けて深く吸うものを言います。
・咳嗽(がいそう)
「咳」は、声は出るが痰は出ないもの。
「嗽」は、痰は出るが声は出ないものを言います。
痰も声もともに出るものを咳嗽と言います。
咳嗽は肺の機能が失調したことで起こります。原因は風寒・風熱の邪が身体に侵入したものと、肺・腎の機能が虚していることが考えられます。
<実証>
・噴嚔(ふんてい)
くしゃみのこと。風寒邪が侵入して気機が失調。つまり、風邪のウイルス等が身体に侵入したことが原因となり、くしゃみが出るもののこと。
・太息(たいそく)
ためいきのこと。一時的な深い呼吸で大きく息を吐くもののことを言います。
<痰湿>
・哮
呼吸が慌ただしく、喉からヒューヒューという音が鳴るもの。
<虚・実証>
同じ呼吸動作でも、原因となるものが異なると虚証・実証とが分かれるものがあります。
・喘(ぜん)
呼吸困難のこと。呼吸が短く切迫しているものを言います。症状がひどいときは、口を開けて方を上下させます。
息が弱く、呼吸音が低く、空気を吸ったときに楽になる場合は、虚証。肺・腎の両方が虚している状態です。
息が粗く、呼吸音が大きく高く、空気を吐く際に楽になる場合は、実証。痰湿などの実邪が肺を犯している状態です。
発語でわかるココロの病!?
患者さんの言葉の表現方法や応対の仕方、きちんと発音できているか?
などの状態を聞き分け、心身の状態を推察します。
発語の異常の多くは、心の病を指します。
<虚証>
・鄭声(ていせい)
同じうわごとを繰り返し発する状態のことを言います。低く力がない声が途切れ、言葉にならない。
・独語(どくご)
独り言で、人が近づくと止まる。
<実証>
・譫語(せんご)
うわごとのこと言います。高熱を出している時などで、意識がはっきりしない状態。語声が高く力はあるが、話の筋が通らない状態。
・狂言
見たこともないものを語り、でたらめな妄言をすることを言います。
<虚・実証>
・錯誤(さくご)
話が錯乱し、あとに気が付くものを言います。
体臭は身体の異常を感知するバロメーター
最近、汗の臭いがきつくなったや、トイレの後、ちょっと臭う。
なんて感じることありませんか?
私たちの体臭は、実は身体の異常を知らせる大事なバロメーターでもあるんです。
気味
患者さんの体臭、口臭、排泄物・分泌物などの臭いのこと。
診察時に、問診や痛みなどがある箇所を触診しながら患者さんの気味を確認していきます。
嗅覚は、同じ臭いを一定時間嗅いでいると、順応してしまい臭いを感じにくくなってしまうため、第一印象が重要となります。
また、排泄・分泌物に関しては問診時に患者さんの感覚で教えてもらいます。
健康であれば、体臭・口臭に特異な臭いはありません。
しかし、五臭(臊(あぶらくさい)、焦(こげくさい)、香(かんばしい)、腥(なまくさい)、腐(くされくさい))のいずれかの臭いがあれば、その臭いと関連する臓が病んでいると考えます。
臊→肝
焦→心
香→脾
腥→肺
腐→腎
また、排泄・分泌物の臭いが強ければ実証・熱証、なまぐさい臭いは虚証・寒証であることが多いです。
診察はよく聞き・嗅ぐこと
今回は、声と臭いでわかる身体の状態についてご紹介しました。
鍼灸の治療は、西洋医学と同様に、患者さんの身体の状態をよく知ることが大切です。
患者さんの状態を把握し、適切な治療を行うことで、お悩みの症状を改善する施術が可能となります。
少しデリケートな質問をする場合もあるかもしれませんが、正しく身体の状態を把握するためですので、ご協力いただけると嬉しいです。
しかし、答えてもらえないと治療ができないわけではありません。
回答が憚られる質問に関しては、遠慮なく答えたくない旨を施術者にしっかり意思表示してくださいね。
次回も、四診の続きを紹介していきます!
参考文献
・東洋医学概論(医道の日本社)
・東洋鍼灸理論(医道の日本社)
・東洋医学の教科書(ナツメ社)