鍼灸のキホン第10回 鍼灸の治療のいろは【問診編:身体の各部位別】

鍼灸のキホン第10回目の今回は、前回から引き続き「鍼治療を行う際の流れ」について、続きをご紹介していきます。

第9回目では、鍼灸治療を行う際の問診についてご紹介しました。

問診では治療を受けるきっかけとなったお悩みである主訴について聞いていきます。
しかしその他にも、患者さんの身体の状態を把握するため、身体の各部位の状態や、全身状態、痛みの強さや性質などをヒアリングしていきます。

10回目の今回は、身体の各部位の状態から診る方法についてご紹介していきます。

目次

主訴以外から何がわかるの?

鍼灸治療では、患者さんの身体の状態を正しく把握することが、良い治療を行う上でとても重要となります。

良い治療とは、お悩みの症状改善はもちろんですが、その症状が出てしまう元々の原因を特定し、その治療も行うことだと私は考えます。

患者さんの身体の状態を正しく把握することで、治療点を明らかにしていく。つまり、病態推察を正しく行うことで、治療効果の高い施術ができます。

ですから、問診では主訴などを確認していきますが、同時に身体の特定部位の状態や痛みなどの度合い、痛みの種類をヒアリングしていき、病態推察に役立てていきます。

身体の各部位で診る

「痛いところや症状が出ている箇所以外を診て、何がわかるの?」
と、鍼灸治療を初めて受けられる方は思われると思います。

東洋医学では、身体の各部位は臓腑・経絡と繋がっていると考えます。

そのため、各部位に現れる症状ならびにその性質を確認することで、お悩みの原因となっている臓腑・経絡を特定したり、病態を推察していきます。

5つの官(五官)で身体の悪い場所がわかる!?

五官とは、目・舌・口・鼻・耳のことを言います。

これらの器官に、施術者から診て気になる点はないか、患者さんからみて特定の症状が出ていないかをヒアリングしていきます。

目は、肝に関連するところとされ、目に関する症状が出ている場合は、肝の状態が悪いと診ます。

東洋医学で肝は、「蔵血」の作用を持ちます。蔵血とは、血の貯蔵と血流量を調節する機能のことです。そのため、目に現れる症状は、血に関連する症状として考えられます。

目が赤い

目が充血していて赤い場合は、身体に熱がある熱証の状態にあります。

目昏(もっこん)

目のかすみや視力が弱くなっていること、物がはっきりと見えにくいことを言います。長時間のパソコン作業やスマートフォンの見過ぎによる、眼精疲労など疲れ目を含みます。

これらは、精血不足により目への栄養が足りていないことによって起こるものが多いです。

舌・口

舌は、心。口は脾に関連するところとされ、舌や口に関する症状が出ている場合は、心と脾に原因があると診ます。

舌の動きに関しては、施術者が舌診を行い視覚的にも確認します。

また、東洋医学では味覚によって身体の状態を把握します。
例えば以下の4つに分けられます。

口淡(こうたん)

食べても味がしないこと。脾気虚によるものが多いです。
「脾」の機能が低下し、その結果としてエネルギーや栄養の運搬がうまく行われなくなった状態を指します。

口酸

口の中が酸っぱい感じがすること。食べたものが消化されず体内に溜まってしまう食滞や、消化機能が低下して現れる、肝脾不和、肝胃不和の状態を指します。

口苦

口の中が苦い感じがすること。熱証や熱を持った湿が肝に影響して起こる肝胆湿熱の状態を指します。

・口甜(こうてん)

口の中が甘い感じがして、粘っこい状態がすること。湿熱が脾・胃に停滞した病態である脾胃湿熱によるものが多いです。

鼻は、肺に関連するところとされ、鼻に関する症状が出ている場合は肺になんらかの原因があると考えます。

鼻閉

鼻づまりのことです。急性なものは風邪などのウイルスによるものが多く、慢性的に症状がある場合は、肺に供給される気が不足した状態である、肺気虚によるものが多いと考えます。

悌(てい)

一般的に言う鼻汁のことです。病態によって症状が異なります。黄色でねばっこい鼻汁は身体が熱証の状態をあらわし、色が薄く透明で水っぽい鼻汁は寒証になります。

また、色が透明だけどねばっこい鼻汁は身体の状態が痰湿であることをあらわします。

耳は、腎に関連するところとされ、耳に関する症状は腎に原因があると考えます。

耳ろう

いわゆる難聴のことです。聴力に障害があるものを言います。

急性のものは実証、つまり身体のバランスを整えている物質の量の過剰や停滞、機能の過亢進状態が原因になっていると考えます。

徐々に聞こえにくくなったり、聞こえなくなる頻度が多くなってくるものを、虚証。生体内の必要物質や生体機能が不足・低下した状態が原因であると考えます。

風邪などのウイルスが原因とする風熱や風寒。肝気の流れが鬱滞して熱を帯びた状態の肝火。身体の中に、余分な水分や脂肪が溜まってしまっている状態である痰湿。

実証は、これらいずれかの状態が原因であると考えます。

一方で寒証は、カラダの発育や性機能を健康に保ってくれる生命エネルギーが足りていない状態の、腎精不足によるものが多いと考えます。

耳鳴

外で音がしていないにもかかわらず、耳元や中で音が聞こえる症状のものです。
こちらも急性のものは実証で、徐々に起こったものは虚証が原因と考えます。

東洋医学では、各臓腑に関連したツボが存在します。
鍼灸治療を行う際は、身体の部位の状態を確認し、お悩みの症状の原因となっている臓腑を把握し、治療点とします。

ですから、鼻水や鼻づまりでお悩みの場合は、鼻周りに鍼もしますが、肺に関連するツボがある腕も治療点となります。

鍼治療を受ける際は、患者さんが教えてくださるすべての身体の状態が、病態を把握するのに大切な情報となります。
ですので、「こんなことは関係ないかも?」と思わずに、気になることは何でもお話しくださいね。

次回は引き続き問診で、全身症状で診る方法についてご紹介していきます!

参照

・東洋医学概論(医道の日本社)
・東洋鍼灸理論(医道の日本社)
・東洋医学の教科書(ナツメ社)

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この記事を書いた人

鍼灸接骨院に鍼灸師として勤務。整形外科疾患から、不眠、頭痛、高血圧他、未病分野の治療を行う。院では外来の他、訪問や大学病院で鍼灸師として派遣勤務を行う。

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