マイクロアグレッションとは?自覚なき差別の事例や原因を簡単に解説

無意識の一言や行動が、相手を傷つけてしまうことがあります。

それが「マイクロアグレッション」。

知らず知らずのうちにしてしまうケースも多く、日常に潜むこの問題に気づくことが大切です。

本記事では、マイクロアグレッションの具体例原因、そして「マイクロアグレッション」をしないさせないためにできることを分かりやすく解説します。

誰もが気持ちよく過ごせる環境づくりのヒントを見つけてみましょう。

目次

無意識の差別「マイクロアグレッション」とは?意味を簡単に説明すると…

近年、「マイクロアグレッション(Microaggression)」という言葉が広まりつつあります。

マイクロアグレッションとは…

「マイクロアグレッション」とは、「無意識のうちに特定の性別、年齢、人種、障害、性的指向などのマイノリティに対して行われる差別的な一連の言動」を指します。

「マイクロアグレッション」の特徴は、それを行っている人が差別している意図や悪意がなく、“無意識に”行ってしまいがちだ、という点です。

悪意がないため、加害者は自らの言動を顧みることは少なく、また被害者は「悪意のない言動だから」と我慢することになりがちです。

相手に悪気がないからこそ、その言動を注意できず、モヤモヤしている人も少なくありません。

マイクロアグレッションの事例。「女なのにすごいね」「私、偏見とかないから」

マイクロアグレッションはさまざまな形で行われます。

ここでは、よくあるパターン例をご紹介します。

「名前が発音できないからXXって呼んでもいい?」アイデンティの軽視

最近まで、ハリウッドなどで問題になっていたのが、アジア系など、英語圏の人からすると発音が難しい俳優の名前を読み間違えたり、短縮したりする、というマイクロアグレッションです。

こういったことは、日本の学校などでも行われます。

外国にルーツのある生徒が、「発音が難しいから、XXと呼ぶね」「長いから短縮して呼ぶことにします」など、先生やクラスメートに言われることもあります。

こういった行為は、先生にも生徒にも全く悪気がありません。

しかし、「本人の名前を正確に発音しようとしない」というのは、世界標準では明確な差別です。

たとえ読めなかったり、発音が難しかったりしたとしても、相手の名前を勝手に変えてしまうことは、差別とみなされるため、注意する必要があるでしょう。

「日本語上手ですね」外国人の阻害

ラッパーのMoment Joon(モーメント・ジューン)さんは『日本移民日記』(岩波書店)で、「日本語上手ですね」と度々言われることに対する違和感を述べています。

Momentさんは韓国出身ですが、長年日本に住んでいるラッパーで、いわば言葉を操るプロです。

当然、日本語は流暢なので、多くの人が善意から「日本語上手ですね」とMomentさんに告げるそうですが、当のMomentさんは、違和感を抱いていると言います。

なぜなら「日本語上手ですね」という言葉は、「あなたは日本人ではない。外国人だ」と阻害するニュアンスを自ずと含むものだからです。

「どこから来たんですか?」ルックスのみで判断される

外国籍の親を持ち、日本に生まれ、「ルックスがアジア人っぽくない」生粋の日本人も、「どこから来たんですか?」とルックスのみで外国人扱いされることもあります。

言っている本人に悪気はなくても、聞かれた本人は、「日本で生まれたのに、また外国人扱いされた」と嫌な気持ちになるでしょう。

こういった、一見すると悪意がないように見える小さな言動でも、受け手にとっては差別や偏見だと感じられ、繰り返し行われることで、重度の心理的負担になることも珍しくないのです。

「女なのにすごいね」。事実であっても差別になる

女性に対しても頻繁に「マイクロアグレッション」は行われます。

例えば、「年収2000万円稼いでいる」という女性がいたとします。それに対して、「女性なのにすごいね」というのは「女性は男性より稼ぐ能力が劣っている」という意味を含んでいるので「マイクロアグレッション」に該当します。

この事例が「マイクロアグレッション」に値する、というのを不思議に感じる方もいらっしゃるでしょう。

なぜなら、実際に日本は男女の賃金格差が大きい国であり、女性の多くは年収300万円程度しか稼げていないからです。

「現実的に賃金格差がある。本当のことを言っているだけでも差別になるの?」と思われる方もいるはずです。

事実を言っているだけでも、マイクロアグレッションになりえます。

なぜなら、「女性なのにすごいね」というのは「女性は男性より稼げない、という性差別的社会がある」という現実を認め、問題視していない態度だからです。

世の中にある差別的な構造を、そのまま受け入れた発言は、当然、差別的なものになります。

例えば、2015年に、ルミネのCMが炎上した事件がありました。

画像出典:ルミネをこじらせて――「ありのままで」からの逆走
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/fa563d97aa6ee70d8835bed2987d4e84a3338006

黒髪にボーダーシャツの女性主人公が出社すると、そこには華やかな同僚女性A子がいる。男性上司がA子と主人公を比べ、「大丈夫だよ、需要が違うんだから」と主人公に言う。そこにテロップが入り、「需要、この場合は単なる仕事仲間であり、職場の華ではないという比喩」。ラスト、「変わりたい? 変わらなきゃ」というキャッチコピーで締め括られる。

このCMが炎上した理由は、2015年にもなって、女性に「職場の華」であることを求める時代錯誤なメイルゲイズ(男性目線)であることは明らかです。

しかし、実際に、職場で「大丈夫だよ、需要が違うんだから」と女性の部下の外見を評価したり、女性自身が「女性なんだからもっと綺麗にしておかないと」と身繕いに力をいれる構造がなくなっているか、というとそんなことはありません。ルミネCMで行われているような価値観は時代遅れと非難されつつも、現存しています。

古いジェンダー観に基づいた差別的構造が現存しているからこそ、その状況を追認し、それで問題なし、とする姿勢そのものが非難されたのでしょう。

「マイクロアグレッション」も同様であり、「事実を言っているだけ」であっても、その事実が差別に基づいたものであるならば、差別的な言動になってしまうのです。

「女性ならではの気づかい」。女性のケア労働を無料または安価で搾取する

古い会社ではいまだに、花束贈呈をしたり、お茶を入れたりするサポート役を女性に押し付ける企業もあります。そういった企業の上層部は、「女性ならではの気づかいで活躍してくれている」などと言うことがあります。

これは、女性はサポート役を担うべき、という固定観念からくる発言です。一見誉めているように見えますし、発言している当人も悪気はないでしょう。

しかし、「女性ならではの気づかい」に対し、いくらの賃金が支払われているのでしょうか? 

保育士などのケア労働を見れば明らかな通り、「女性はナチュラルにケアの能力がある」イコール「女性なら誰でもできる」という性別役割に基づき、給与は不当に安く抑えられています。

「女性ならではの気づかい」という言葉は、「マイクロアグレッション」であると同時に、女性のケア能力を自然なものだと定義し、労働力を無料、または安価で活用するための都合のいい搾取の方便なのです。

「ゲイなの?私、偏見とかないから」「もったいない」無意識の上から目線

同性愛者であることを明らかにした人に対し、「レズビアン(またはゲイ)なの?もったいない、モテそうなのに!」「大丈夫だよ、俺、偏見とかないから」「ゲイの友達、欲しかったんだよね」と言う人もいます。

これらの発言をしている人に悪気は全くないどころか、同性愛者を「寛容にも受け入れる懐の深い俺・私」という自意識でいるかもしれません。

しかし、それこそが、「マイクロアグレッション」なのです。

これらの言動には、異性愛こそがノーマルで素晴らしいもので、「同性愛は格下、外れ値、マジョリティの俺・私が、寛容さを発揮して受け入れてあげるもの」という無意識の上から目線が含まれています。 

マジョリティである異性愛者側は、同性愛者から「寛容になって受け入れてあげるね」と恩着せがましく言われることはないでしょう。マジョリティが自身の特権に気づかないでいると、無意識の差別、「マイクロアグレッション」をしてしまうことになるのです。

マイクロアグレッションの一因、アンコンシャスバイアス

ところでなぜ、人は「マイクロアグレッション」をしてしまうのでしょうか?

一因に、アンコンシャスバイアスがあります。

マイクロアグレッションの原因、無意識の偏見「アンコンシャスバイアス」

アンコンシャスバイアスとは、無意識の偏見のことです。

人は無意識のうちに、自身の文化的背景や人生経験をもとに、特定の人に対し、無意識の偏見を抱いています。

例えば、専業主婦家庭に育った人は、自分の母親が家事・育児を担っているのを見て、「女性は家事・育児が向いている」と思い込むことがあります。

当時は時代的に女性が外で働くのが難しかっただけで、母親は嫌々ながらに家事を行なっていた可能性もあるでしょう。しかし、自分の母親が差別的構造に基づいて渋々家事・育児をしていた、と思うのは辛いことでもあります。

女性は、あるいは母親は、家事育児が向いているし、好きでやっているんだ

と考えた方が、罪悪感を抱かずに済みます。

女性は、ケア労働が向いているし、好きでやっているんだ

という偏見は、

女性は家族や、会社のために、無償、または安価でケア労働に従事すべき

という思い込みを強化させ、ひいては、

女性に淹れてもらったお茶は美味しい。お茶汲み係は女性にお願いする

などの性差別発言につながるのです。

無意識の偏見は、外国人や障害者、セクシャル・マイノリティに対しても抱くことがあります。そう言った偏見が、「マイクロアグレッション」につながることも多いのです。

「マイクロアグレッション」を防ぐためには、自身が抱いている偏見に対し、敏感になる必要があるでしょう。

マイクロアグレッションを防ぐには?

次に、「マイクロアグレッション」をしないために気をつけるべきことについて確認していきましょう。

アンコンシャスバイアスを意識する

まずは、自分の中にある偏見に気づくことが大切です。

とは言っても、アンコンシャスバイアスは「無意識」の偏見ですから、自覚するのが難しい場合も多々あります。

ダイバーシティ研修に参加する、どういったアンコンシャスバイアスがあるのか調べてみる、など自分から学びに行く必要があるでしょう。

本などで学ぶ

書籍などで学びを深めることも大切です。

例えば、キム・ジヘ著『差別はたいてい悪意のない人がする 見えない排除に気づくための10章』(大月書店)は「マイクロアグレッション」の入門書として最適でしょう。

また、神谷悠一著『差別は思いやりでは解決しない』(集英社新書)は、セクシャル・マイノリティに対する「マイクロアグレッション」を防ぎたい、という人にお勧めです。

マイクロアグレッションを受けたとき、どう対処する?

次に、自身が「マイクロアグレッション」を受けた場合、どう対処すればいいか、を見ていきましょう。

マイクロアグレッションであると指摘する

「マイクロアグレッション」をしている当人は差別をしているという自覚がなく、善意から発言している場合も珍しくありません。

相手との関係性ができていて、説明できる環境にある場合は、「その発言は私にとって不快です。なぜなら・・・」と説明するのも一案でしょう。

相手に発言の意図を聞く

「その発言はどういう意味?」と相手に意図を聞いてみましょう。

そうすることで、発言者は自身の言動が差別的だった、と気がつける可能性があります。

他の人に相談する

直属の上司、同僚、先生などから「マイクロアグレッション」を受け続けている場合で、当人には指摘しづらい場合は、人事やスクールカウンセラー、信頼できる専門家に相談してみるのもいいでしょう。

愚痴る・話を聞いてもらう

「マイクロアグレッション」を受けた際、理想的には、指摘し、やめさせるのが一番でしょう。

しかし、「マイクロアグレッション」は発言者の悪意のなさゆえに、なかなか指摘しづらいのが現実です。繰り返し行われるため、何度も指摘するのも重労働でしょう。

現実的には、「マイクロアグレッション」を指摘できないケースも多々あります。

そう言った場合は、「ちょっとしたことだから」「相手に悪意はないから」と心労を溜め込んでしまわず、信頼できる友達やカウンセラーなどに話を聞いてもらいましょう。

さいごに。無意識の偏見に自覚的になり、「マイクロアグレッション」を防ごう

「マイクロアグレッション」はアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)によって引き起こされる些細な言動ですが、その影響は積み重なると、受け手にとって大きな心理的負担になります。

学校や職場など、日常生活のあらゆる場面で起こる可能性があるため、自分の中にあるアンコンシャスバイアスを意識し、相手を尊重するコミュニケーションを心がけることが大切でしょう。

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この記事を書いた人

編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、執筆・連載中。視界が開けるような記事を発信していきたいです。

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