優先席の「譲る・譲らない」問題。若者は譲るべき?心理と葛藤を探る

優先席、譲らないことは「悪」ですか?

近年、「目の前に高齢の人がいたのに、席を譲らないサラリーマンがいた」「優先席で寝たフリをしている女がいる」などの呟きがSNSに投稿され、炎上することがあります。

時には写真付きで晒される騒動まで発生する「譲る・譲らない」問題ですが、なぜこれほど私たちの心をザワつかせるのでしょうか?

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今来今

編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、執筆・連載中。視界が開けるような記事を発信していきたいです。

目次

日常に潜むモヤモヤ、優先席の「譲る・譲らない」問題

それは、「譲る・譲らない」がとても身近な問題だということが一因でしょう。

電車で優先席に座っていると、杖をついた高齢者が乗車してきた。でも、なぜか声をかけられない。周りの視線が気になる。「本当に必要なのかな」「もしかして迷惑かも」そんな思いが頭をよぎる……そんな経験は誰しも一度くらいあるでしょう。

一方で、優先席を必要としている側の気持ちも複雑です。「体調不良で座りたいけど、言い出せない」「優先席なのになぜ譲ってくれないのかな」「健康な若者に見えるけど、もしかして何か座っていないといけない事情があるのかも

こうした双方の心の葛藤が、社会全体のモヤモヤを生み出しているのです。

優先席の「譲る・譲らない」問題に正解はあるのか?

多くの人がモヤモヤしているこの「譲る・譲らない」問題、果たして正解はあるのでしょうか?

譲らないことに、法的な問題はない

まず確認しておきたいのは、若者や健康な人が、優先席に座ることは法的には禁止されているわけではない、という点です。

「優先席」はその名の通り、特定の人々に優先的に座ってもらうための座席であり、それ以外の人が絶対に座ってはいけないという規則はありません。

鉄道各社のルールを見ても、「お年寄り、お体の不自由な方、妊娠中の方、乳幼児をお連れの方に席をお譲りください」という呼びかけはあるものの、罰則はなく、厳格なルールではないことがわかります。

道徳的観点からは譲るべき?

ただし、法的な問題がないからといって、道徳的な配慮が不要というわけではありません。

社会は法律だけで成り立っているわけではなく、お互いへの思いやりや配慮によって、より住みやすい環境が作られています。

しかし、この「思いやり」という概念も、人によって基準が異なります。ある人にとっては「当然の配慮」でも、別の人にとっては「過度な要求」かもしれません。

「譲る・譲らない」問題に、絶対的な正解はない

現実的には、優先席問題に一律の正解を求めるのは困難です。なぜなら、その場の状況、関わる人々の事情、車内の混雑状況など、様々な要因が絡み合っているからです。

重要なのは、「絶対的な正解」を求めるのではなく、その場その場で最善の判断をすることです。そして、他人の判断を一方的に批判するのではなく、様々な事情があることを理解することも大切でしょう。

優先席、譲る?譲らない?揺れる価値観と世間の意識

では実際のところ、私たちはどのくらい「席を譲るべき」と感じているのでしょうか?

アンケートによると、優先席を必要とする人には席を譲るべきだと思うと答えた人は全体の79.1%に上りました。
男女別に見ても、女性の83.1%(4450人)、男性の78.5%(11874人)が「思う」と回答しています。

優先席を必要とする人に譲るべきだと思いますか?女性男性総計
思う4450人(83.1%)11874人(78.5%)16902人(79.1%)
思わない181人(3.4%)806人(5.3%)1022人(4.8%)
どちらとも言えない724人(13.5%)2457人(16.2%)3429人(16.1%)

つまり、大半の人が譲るべきという意識は持っている一方で、「思わない」「どちらとも言えない」という本音も一定数存在するという現実も浮かび上がります。

さらに興味深いのは、「優先席以外でも譲るべきか?」という質問への回答です。
こちらも約70%が「譲るべき」と回答していますが、優先席と比べるとやや数値が下がります。

優先席以外でも、必要な人に譲るべきだと思いますか?女性男性総計
思う3997人(74.7%)10453人(69.1%)14947人(70.0%)
思わない257人(4.8%)994人(6.6%)1309人(6.1%)
どちらとも言えない1101人(20.6%)3690人(24.4%)5097人(23.9%)

「譲るべき」と答えた割合は下がる一方で、「どちらとも言えない」が約24%に増加しており、
譲りたい気持ちはあるけど、どこまでが“正解”かわからない」と感じている人が多いことがわかります。

また、そもそも「優先席自体が必要かどうか?」という問いに対しても、約7割の人が「必要だと思う」と回答しているものの、
残りの3割近くは「思わない」「どちらとも言えない」と感じているのが実態です。

優先席は必要だと思いますか?女性男性総計
思う4036人(75.4%)10699人(70.7%)15241人(71.4%)
思わない258人(4.8%)1077人(7.1%)1390人(6.5%)
どちらとも言えない1061人(19.8%)3361人(22.2%)4722人(22.1%)

では、優先席が「不要」と考える人は、なぜそう感じるのでしょうか?

優先席が不要だと思う理由(複数回答)回答数(総計)
譲るのが当たり前だから、特別な席はいらない486件
混雑の原因になるから439件
優先席に頼らず、全体で譲るべきだから343件
座れないことが多く、意味がない196件
特に理由はない・その他244件

その理由を尋ねたところ、

  • 「そもそも譲るのが当たり前だから」
  • 「混雑の原因になる」
  • 「優先席があると、そこだけ譲ればいいと思われる」

といった声が目立ちました。

アンケートデータは、「譲りたい気持ちはある」「必要性も理解している」という意識が多くの人に根づいている一方で、実際の行動としてどうすればよいか、迷いや不安を感じている人が多いことを示しています。

多くの人が、譲る気持ちは持ちつつも、「どこまでが正解なのか」迷っているのです。

それは、「声をかける勇気が出ない」「本当に必要としているか判断できない」「逆に気を悪くさせてしまうかも」といった、譲る側の心理的な葛藤が背景にあるのかもしれません。

優先席を譲らない人が責められる時代の空気感。SNSが生み出す「正義の暴走」

近年、優先席に座っている人の写真を無断で撮影し、SNSに投稿する事例が増えています。「優先席に座っているのに譲らない若者」として晒される人々もいるのです。しかし、これは非常に危険な行為だと言えるでしょう。

投稿者は「正義感」から行動しているかもしれませんが、写真を撮られた人には見えない事情がある可能性があります。

また、無断での撮影・投稿はプライバシーの侵害にもなりかねません。見た目だけではわからないけれど優先席を必要としている人は少なくありませんから、こういった晒し行為はするべきではないでしょう。

見た目ではわからないけれど、優先席を必要としている人とは?

現代社会では、見た目の印象で人を判断する傾向が強くなっています。若くて健康そうに見える人が優先席に座っていると、「譲るべきだ」と思われがちです。

しかし、これは非常に危険な思考パターンです。なぜなら、見た目だけでは分からない事情状況が、実は数多く存在するからです。

ここでは、代表的な事例をご紹介します。

心臓に疾患がある人

心臓に疾患がある人は、外からはわかりませんが、階段の昇降や少しの運動でも息切れしてしまうことがあります。外見状は健康に見えても、長時間立ち続けることで心臓に負担がかかる場合もあるのです。

透析治療中の人

腎臓に疾患があり、週に数回、数時間の透析治療を受ける必要がある人もいます。透析治療後は、体力が大幅に消耗しているため、立っているのも辛い状態であるケースが多いのです。

関節リウマチを患っている人

関節の痛みや炎症で立ち続けることが困難な人もいます。リウマチは高齢者に多いというイメージがありますが、20代、30代でも発症する病気です。

腰痛持ちの人

腰回りの痛みは、若い人でも経験するものです。腰に負担をかけるのが辛く、座っていたいと思う人もいるのです。

がん闘病中の人

抗がん剤の副作用で倦怠感や吐き気に悩まされている人もいます。外見状元気そうに見えても、辛くて仕方がないという人もいるのです。

パニック障害のある人

満員電車の中で立っていると、突然強い不安に襲われる可能性があります。安心できる場所として座席を必要とするケースもあるのです。

発達障害のある人

感覚過敏がある方の場合、人との接触や騒音に敏感なため、空いている座席があることで安心できるケースがあります。

マタニティーマークはつけていない妊婦

妊娠初期の女性も、見た目では分からない典型例です。つわりで体調が悪くても、まだお腹が目立たない時期は、周囲からは妊娠していることが分かりません。

つわりの症状として、強い吐き気や眩暈、倦怠感があります。これにより、立っているのが辛い人もいるのです。また、妊娠中は貧血になりやすいこと、ホルモンバランスが急激に変化していることから、突然座り込みたくなることもあるでしょう。

それならばマタニティーマークをつけるべきだ、という意見もあるでしょう。しかし、場合によっては妊娠を公表したくない事情があり、マタニティーマークをつけられないケースもあります。

例えば、職場で重要なプロジェクトを任されたばかりで妊娠を公表しづらいとか、妊娠初期は流産のリスクが高いため安定期に入るまで公表を控えたいとかいった事情があるかもしれません。

社会学者の富永京子さんは、毎日新聞で「母親になったことを誰かに伝えると、何かを失いそうで怖かった」と語り、長い間、出産したことを公にしていなかったと語っています。

女性の出産は、キャリアダウンや、さまざまなお誘い・可能性の減少などにつながる可能性があるため、秘匿している人も少なくないのです。


以上のように、外見からはわからなくても優先座席を必要としている人は少なくありません。ですから、一概に「若者だから席を譲るべき」だとは言い切れないでしょう。

優先席問題だけでなく、より良い社会を作るために。「思いやり」の形はさまざま

優先席の「譲る・譲らない」問題を解決するためには、まずは「思いやり」の形が人それぞれ異なることを理解する必要があります。

  • 積極的に声をかける人
  • 静かに席を立つ人
  • 状況を見守る人
  • 譲りたいけれど、勇気がなくて声をかけられなかった人
  • 普段は譲っているけれど、疲れた時は譲らない人

などさまざまな人がいます。

また、高齢者に席を譲らないけれど、高齢者施設でボランティアをしているとか、別の形で社会貢献をしている人もいます。

どれもその人なりの「思いやり」の表現であり、一つの絶対的な正解があるわけではありません。

他人の事情を想像してみることができれば、優先席の「譲らない=絶対悪」にはならない

優先席の「譲る・譲らない」問題に、一つの正解はありません。大切なのは、お互いの事情を想像し、思いやりの心を持ち続けることです。

「毎日の通勤電車の中で、少しだけ周りを見回してみる」「困っている人がいたら、自分なりの方法で手を差し伸べてみる」そして、「他人の行動を批判する前に、その人の事情を想像してみる」。

そんな小さな変化の積み重ねが、きっと今よりも少し優しい社会を作っていくのだと思います。

「譲る・譲らない」問題は、私たち一人ひとりが「思いやり」について考え直すきっかけを与えてくれているのかもしれません。

<調査概要>
調査方法:「QR/バーコードリーダー・アイコニット」アプリ内アンケートコーナーにて実施
調査対象者:「QR/バーコードリーダー・アイコニット」アプリユーザー
調査日:2025年3月10日
有効回答者数:21,353人
※文中の数字は小数第一位または第二位を四捨五入しているため、合計しても100%にならなかったり、同じパーセンテージでも見え方が異なったりする場合があります
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