再生プラスチックと特典付きデジタルパッケージが持続可能な音楽のためにできること 

音楽ソフトの形態は日々移り変わっています。アメリカで2018年に世界最大の家電量販店ベスト・バイがCD販売を止めたことが話題になりましたが、かと思えば2021年には、CDの売上が2004年以来に増加した、なんていうニュースも。

ただ、その増加率はわずか1%程度だったとのことなので、CD復権! などと声高にいえるようなものではないようです。大勢では、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービスがあくまで主流、ということでいいのでしょう。

一方、音楽ソフトのパッケージ市場における日本のガラパゴスぶりは際立っており、「世界で一番CDが売れる国」として知られています。

どんな音楽作品が売れるかはあくまで個々人の嗜好にすぎませんし、こちらの音楽作品は優れていてそちらは劣っている、などということは決してありません。

しかし、その音楽作品がどう / 何でパッケージングされているか、については、CDが石油資源を使っている製品である以上、“CDのようなフィジカルメディアを愛好しようが、デジタル配信を重用しようが、どちらも個人の勝手さ”と言い切ることには限界があるのではないでしょうか。

日本のCD市場では長らく、アイドル / アーティストとの握手会参加券などの特典目当てコンシューマを狙った「同一CD大量売りつけ」手法が席巻してきました。

音楽CDは本質的に一つのマスターデータの大量複製品でしかないものですが、以前は“CDは一人一枚”という前提があったからこそ、ただの大量複製品をたくさん製造し、たくさん梱包し、たくさん売ることがよしとされてきました。“たくさんの人の耳に届いて、その人達を喜ばせ感動させる”はずだと信じられていたからです。

ところが「同一CD大量売りつけ」ではこれが崩されてしまいました。

一つのマスターデジタルデータの複製品なのですから、大量のCDが届いても、一人の消費者はそのうちの一枚を開封して聴けばいいだけです。他の数百枚はどれを聴いても同じです。同一作品のジャケット違い盤もありますが、せいぜい7種くらいで、数十枚~数百枚買うようなアイドルファンからすれば大同小異です。

こうなると途端に気になってくるのが、廃棄されるCDと、その廃棄されるために作られたCDの製造コストおよび資源無駄遣いです。

前置きが長くなりましたが、本稿では、CD盤の製造業者側のリサイクルの取り組みと、レコード会社向けに新しいデジタル配信パッケージサービスを提供するIT企業の取り組みをご紹介します。

目次

SORPLAS™とは何か

SORPLAS™はソニーが開発した難燃性再生プラスチックです。ソニーのサイトには

市場から回収された使用済みの水ボトルや、工場や市場から排出された廃ディスク、そしてソニーが独自開発した難燃剤などを原料に作られており、今やソニーの製品に限らず幅広い製品に採用されています

とあります。

ここで本稿が注目したいのは“工場や市場から排出された廃ディスク”という箇所です。この廃ディスクは、ソニーミュージックグループの「株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ」が排出したものなのです。

株式会社ソニー・ミュージックソリューションズの事業内容は多岐にわたりますが、その中に

音楽・映像等ソフトウェアのディスク製造・開発、データ編集・保存(アーカイブ)

とあることから、CDやDVD、Blu-rayなどを製造していることが判ります。また同社の沿革ページを見ると、CDのみならずアナログレコード、アナログカセットテープ、レーザーディスク、ミニディスク、SACD、Music UMD、PS Vitaゲームカードなどなど、様々なメディアを生産してきた会社であることも判ります。

ちなみにソニー・ミュージックソリューションズの廃ディスクを原料の一部として再利用したSORPLAS™は、ソニーのTVである「ブラビア™」のリアカバー部分に使用されているのだとか。その他、SORPLAS™は私達にも馴染み深いAndroidスマートフォン「Xperia™」内部部品や、デジカメ「VLOGCAM™」外装・内部部品に採用されているのだそうです。

こうした環境配慮技術が、今でも「世界で一番CDが売れる国」・日本のエンタテインメント企業グループ大手であるソニーミュージック、そのソニーミュージックを擁するソニーから生まれたことに、一縷の希望をみる思いがします。皆さんはどう思われますか?

miimとは何か

miim(ミーム)は、株式会社ブートロックが2022年にリリースしたばかりの新サービスです。まだまだご存じない方も多いでしょう。

「同一CD大量売りつけ」によるCD大量生産継続および資源無駄遣いにストップをかける抜本的対策としては、音楽作品のフィジカルメディア販売を止め、デジタル販売に移行するのが最も手っ取り早いです。デジタル移行を進めやすくするためには、『今現在、CDを大量に買ってくれている層』の購買モチベーションを下げずに、フィジカルメディア → デジタルに乗り換えてもらうことが肝要です。

そこでmiimでは、音声ファイルだけの販売ではなく、売る際に、イベント参加の抽選シリアルコードを付けたり、インストアイベントの回ごとのデジタル特典を付けたりすることができるようにしました。

特典欲しさに楽曲を買いたい、という人の購買モチベーションを否定することなく、しかし楽曲自体はデジタルデータであるため、

・大量のCDを買ったはいいけど保管場所に困ったり

・床が抜けそうになったり

・アーティストのライトファンに余ったCDを譲る気はあるけれどなかなか捌けなくて困ったり

・新曲発売記念イベントに参加しに遠方に『遠征』したけど、特典会に参加するために買ったCDを重い思いして持ち帰らなければいけなかったり

といったことがないのは助かります。

楽曲データ以外にデジタルデータを付けることができるということは、ジャケット画像やブックレットをデジタルデータとして付けることもできるということです。CDやアナログレコードの時代にあった、<歌詞カードの凝ったデザインワークをじっくり見る><ブックレットに掲載されているスタッフクレジットを熟読する>といった楽しみ方が可能なのは、嬉しいと感じる人も少なくないのではないでしょうか。

売る側としても、CD水準の価格を設定しやすく、売上をつくりやすいというのはポイントであるようです。

最後に

意外と見落としがちなことですが、若者はCDプレーヤ自体を持っていない人というのも珍しくなくなりつつあります。

彼ら彼女らは物心ついた頃からYouTubeが存在し、また、半導体不足と円安でスマホは高騰しながらも、字義どおりのライフラインとして手放せない、そんな時代を生きています。それ故に、CDプレーヤにお金を出すのが難しいのかもしれません。

そうしたことを考えれば考えるほど、私達が音楽CDノスタルジーの呪縛を脱却してデジタルへ移行するのは、単なる志向・選択の問題ではなく、いつか乗り越えなければならないことのように思えます。廃ディスクリサイクルという方向から / デジタル配信パッケージングという方向からヒントを与えてくれる二社の動き、今後も注目していきたいと思います。

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