Wellfy

  • エクササイズ
  • ヘルスケア

桑山の超私的おすすめ!エクササイズに役立つ本 #1 『脳を鍛えるには運動しかない!』

Date
2023/05/21
Writer
Wellfy
記事のサムネイル

おすすめ本のご紹介!


昨今の健康志向ブームで、健康や運動に関する書籍が本当に増えました。健康で快適な暮らしを送るための情報が手に入りやすくなった反面、どれを読んだらいいか迷ってしまいますよね。 そこでこのコラムでは、健康・運動指導のプロ目線から、皆さんにぜひおすすめしたい本をピックアップ! 今回紹介するのは、次の書籍です。


『脳を鍛えるには運動しかない!  最新科学でわかった脳細胞の増やし方』
[著]ジョンJ.レイティ [著]エリック・ヘイガーマン [訳]野中香方子
NHK出版 2009年



アドバイザー:桑山 純一

健康運動指導士、パーソナルトレーナー。

●略歴
「日本を元気にしたい!」…その思い一つで、新宿にそびえる某お役所を飛び出してきた、フィットネス界の異端児。
やせたい、体を鍛えたい、健康に暮らしたい、あなたのそんな「変わりたい」を一生懸命お手伝いします。

●所持資格等
・東京大学教育学部身体教育学コース卒
・健康運動指導士




なぜ運動が必要なのか~本質的な答え

この本は、「運動=体の健康のためにするもの」という常識を見事にひっくり返してくれる良書です。

2009年の刊行から12年が経過していますが、今もなお書店に並び続けている、それだけ人気もあり内容も確かな書籍です。 著者は、アメリカの精神科医。実際に患者と向き合う中で、心と体を別物として扱う現代医学に疑問を感じており、不安やうつといった精神障害に対して運動は最高の治療法だと確信しています。この本を執筆したのは、運動と脳をつなぐ驚きに満ちた科学をわかりやすい言葉で語り、それが実際の生活にどのような形で現れるのかを示すため、とのことです。


私がこの本をおすすめする一番の理由は、そのような体育や運動の専門家ではない著者が、「なぜ運動が必要なのか」という根源的な問いに対する本質的な答えを示してくれているからです。


「ヒト」という動物が地球上に登場したのは200万年前。農耕が始まったのはたかだか1万年前で、ヒトは基本的に狩猟・採集生活に適した動物として進化してきました。
ヒトの最大の特徴の一つは、長時間移動し続けられることです。体毛を脱ぎ捨て汗で体温調節する仕組みを進化させたことでそれが可能になりました。一瞬のスピードに勝る野生動物も、追いかけ続けて疲れさせることで仕留めることができたのです。 私たちの祖先は、一日に8~16kmも歩いたり走ったりしていたと考えられています。

そうやって動き続け、食料を効率よく獲得する方法を考え続けてバージョンアップしてきた生命体が、一日の大半を座ったまま過ごすようになったら、調子が狂うのは当たり前。現代人の運動不足によって起きるさまざまな不調・病気等(生活習慣病・認知症・うつ等)は起こるべくして起こっているのです。


「日々の生活に運動を取り入れることで、脳を最高の状態に保てる」と著者はいいます。 心も体もすべては脳の働きによるものですから、脳を最高の状態に保つ=「人生がより豊かでより楽しいものになる」ということです。私は、「なぜ運動が必要なのか」の答えはここにあると思っています。



事例・研究データが豊富


本書では、運動が脳にいいとする事例や研究データが「これでもか!」というくらいたくさん紹介されています。臨床医であり研究者でもある著者ならでは、の圧巻の内容です。 以下に、ほんのごく一部をかいつまんでご紹介します。

・毎日の授業前に有酸素運動(ランニング)を実施するようにしたところ、学業成績が向上
・運動をさせたマウスは、海馬(脳内の記憶を司る部位)が活性化
・人間でも運動前より運動後のほうが単語を覚えるスピードが20%アップ

⇒運動によって記憶・学習効率が上がる


・不安障害の女性が、有酸素マシンを毎日30分漕ぐようになったら、抗うつ薬が不要になり、症状をコントロールできるようになった
・アラメダ郡の住人を26年間追跡調査した研究で、運動をしない人のうつになる割合は、よく運動をする人の1.5倍であった
・デューク大学で行われた研究で、運動に抗うつ薬と同等のうつ症状緩和効果が認められた

⇒運動をするとうつを予防・改善できる


・ADHD(注意欠陥・多動性障害)の高校生が、大学生になりランニングを始めたら、治療薬なしでも自分をコントロールできるようになった
・ニューヨークにある薬物依存症者リハビリ施設では、ほとんどの患者が、運動を始めると依存状態から抜け出し、運動に夢中になる

⇒運動は、衝動的な反応を抑えるのに役立つ


・PMS(月経前症候群)・産後うつに悩んでいた女性が、運動の継続によって家庭円満を保っている
・オーストラリアのクイーンズ大学の研究で、運動習慣と更年期障害との間に強い関連が認められた

⇒女性ホルモンの変動による心身の変調に対しても運動は効果的



・認知力テスト上位10%の好成績のまま85歳で亡くなった修道女の脳を調べたところ、アルツハイマー病によって脳の組織はボロボロだった

⇒運動と知的活動を続けていれば、脳内に新たな神経ネットワークが構築され続け、認知症にならない



全10章にわたり、現代人が抱える諸問題に関し、運動が脳に影響を及ぼすメカニズムが豊富なエビデンスとともに語られています。「運動は心と体の健康にいいから、皆さん運動しましょう!」という著者の強いメッセージが伝わってきます。




「ストレス」を正しく理解できる

この本を読んで目からウロコだったのが、「ストレス」の捉え方についてです。非常にわかりやすくシンプルに説明されていて、さすが臨床の精神科医と唸らされました。


「ストレス」とは、身体の均衡を脅かすもの。著者はそう定義しています。フランス語を勉強すること、知らない人に会うこと、失業の不安を抱えること、さらには、ただ単にイスから立ち上がること。それらはどれも、程度の差こそあれ、脳内のニューロンの活動を引き起こします。そうした脳に負荷をかけるものすべてが「ストレス」である、とのことなのです。


そして、ストレスを受けたときの身体の反応は、突き詰めると、①危険に集中、②反応を起こす、③経験を記憶、の3つに集約される。つまり、身体の安定状態を崩す危険を察知し、難を逃れ、次に同じ目に遭ったときにその経験を生かすということ。それはまさに、生き延びるための知恵を身につけることであり、ストレスは生存や進化にとって不可欠なものだと述べられています。一般に、ストレス=身体に悪いものというイメージですから、とても意外に感じませんか?


意外な話はさらに続きます。

筋トレが好きな人なら「超回復」という言葉を聞いたことがあると思います。筋肉に負荷をかけると筋細胞に小さなキズが生じ、2~3日休ませると、前よりもほんの少し筋肉が強くなる現象です。実は、これと同じことが脳内のニューロンでも起こるというのです。筋肉を強くするために過負荷が必要なように、脳の機能を高めるためにはストレスが必要。これには本当に驚かされました。


ただし、いくら必要とはいっても適度に、です。ストレスは生き抜くための適応に不可欠ですが、多すぎると身体に悪影響を及ぼすからです。 強すぎるストレス、長すぎるストレスは、生存を脅かす危機と認識され、その記憶が深く刻み込まれます。それとともに、その記憶以外との回路が遮断され、ニューロンの死滅、脳の萎縮を招くのだそうです。また、生存の危機に備えエネルギーを蓄え込もうとするため、いわゆる「ストレス太り」が起こります。 運動にはこのような望ましくない反応に対抗する反応を引き起こす力があります。「運動でストレス解消!」は科学的にも正しいのです。


いかがでしたか?
次回はストレッチの教科書的な本を取り上げる予定です。お楽しみに!

Related Posts

関連する記事