「親ガチャ」とは、どんな親や境遇で生まれるかは運任せであり「ガチャ」のようなものであることを皮肉った言葉です。
この表現は、ソーシャルゲームでキャラクターやアイテムをランダムで入手する方法「ガチャ」になぞらえて発案されました。
「子どもは自分の親を選ぶことはできず、生まれた家庭環境によって人生が左右される」ことをゲームのガチャに見立てた表現が「親ガチャ」なのです。
「親ガチャ」が流行語になった社会的背景とは?
「親ガチャ」は、主に若者間で広まり、2021年にはユーキャン流行語・新語大賞にノミネートされるほど注目を集めました。
注目すべきは、若者の間で流行った言葉、という点でしょう。
なぜ若者の間で流行ったのかというと、失われた30年と言われるほど経済が低迷するなかで、「親ガチャ」にはずれてしまった場合、本人がいくら努力しても報われないという不公平感が社会のなかに蔓延していたからでしょう。
いつの時代も、貧困家庭や虐待をする親、ネグレクトする親はいましたが、高度経済成長期には親元を出たら自分の人生を立て直せるという希望がありました。
しかしいまや、最初でつまずいてしまったら、その後の人生で立て直しが厳しくなると若者は考えたのです。
つまり「親ガチャ」は、理想的ではない親が増えたから現れた言葉なのではなく、金持ちの子どもは金持ちに、政治家の子どもは政治家に……というように、世襲で金銭と特権が受け継がれ、そういったルートに乗れなかった人はいくら努力しても報われない、という社会に対する絶望が産んだ言葉だとも言えるでしょう。
「親ガチャ」のハズレの例とは?
「親ガチャ」がハズレの例は、大きく経済的な事例と家庭環境の事例のふたつに分けられます。
「親ガチャ」がハズレだったと言われがちな例 貧困
もっともわかりやすい例は、貧困家庭でしょう。
教育にお金をかけられず、望んでいた大学に進学できなかった場合、子どもの将来は大きく変わっていきます。
「大人になって自分で稼いで入学すればいい」というのはきれいごとであり、大学に入学できなかった人の初任給は往々にして安く、また激務なことも多いため、満足に貯金することもできない人も少なくないのです。
ただし、貧困だからと言って即「親ガチャ」はずれ、というわけではありません。
たとえば、日本は女性の賃金が低く抑えられているため、シングルマザーのふたりにひとりが貧困ライン以下の収入しか得られていません。しかし、母親が愛情をもって育てていたことが子どもに伝わっていれば、子どもは「親ガチャハズレだった」とは言わないでしょう。
それゆえ、貧困で「親ガチャ」ハズレだった、という子どもの多くは、次に述べる家庭環境の面でも恵まれなかったケースがほとんどなのです。
「親ガチャ」がハズレだったと言われがちな例 家庭環境が悪い
児童虐待や過干渉、ネグレクト、新興宗教信の入信・勧誘を強制される……といった要因も「親ガチャ」ハズレと認識されがちです。
また、子どもに暴力をふるわない場合でも、父親が子どもの面前で母親に暴力をふるう……などのケースは面前DVと言われ、子どもの心に深刻なダメージを与えることが知られています。
家庭の治安が悪く、家庭内に安全な場所がなかった子どもは、家庭の外に居場所を求めて、その結果、危険な目にあってしまうパターンもあるのです。
2万5千人のアンケート結果。「親ガチャ」ハズレってあると思う?
次に、2万5千人の男女に行った「親ガチャ」についてのアンケート結果を見ていきましょう。
「親ガチャ」ってホントにあると思う? 4割の人は「ない」「わからない」
「親ガチャ」という言葉は広まりましたが、実際にはどれくらいの人が「親ガチャはある」と認識しているのでしょうか?
アンケート結果によると25379人の回答のうち、約60%の15409人が「親ガチャ」はあると認識しており、ないと認識しているのは、約15%の3700人です。
半数以上の人が「親ガチャ」はあると認識していますが、約40%の人はない、もしくはわからないと答えているため、「親ガチャ」があるか、ないか、は意見の割れるトピックだと言えそうです。
「親ガチャ」成功は6割、失敗は4割?
次に、自分は「親ガチャ」があると認識している方を対象にした、自分自身は「親ガチャ」に成功したと思うか? というアンケート結果を見てみましょう。
アンケート結果によると、約60%の方が「親ガチャ」が成功・またはどちらかというと成功したと考えており、どちらかというと失敗、または失敗だと考えている方は約40%でした。
「親ガチャ」は、「自分の努力不足を親のせいにしている人が作り上げた言葉」という意見を言う人もいます。しかし、このアンケート結果によると、半数近くが自分の家庭は恵まれていると認識しながらも「親ガチャ」の存在を認めているため、そういった認識は誤っていると言えそうです。
「親ガチャ」がないと認識している理由は?
最後に、「親ガチャ」がないと認識している人に、なぜないと考えているのか、その理由を聞いてみました。
「子どもは自分の親を選ぶことはできず、生まれた家庭環境によって人生が左右される」という「親ガチャ」がないと認識している人の多かった理由は、「親のせいにするのはよくないから」「家庭環境が悪くても本人次第でどうにでもなるから」という回答でした。
どれだけ家庭環境が悪くても、自分の頑張り次第でどうにかなるという自己責任論を支持している人たちにとって、「親ガチャ」は「努力しない人の甘えた言動」に見えるようです。
さいごに。「親ガチャ」がハズレだと思ったら……どうやって親と向き合えばいい?
「親ガチャ」など存在しない、と思っている人も少なくないようです。
しかしそもそも「親ガチャ」という言葉は、「親ガチャ」にハズレたと感じ、つらい思いをしている人たちが現状の不平等、理不尽を表現するために使っていた言葉ですから、他人がその言葉を奪う権利はないでしょう。
虐待などをされている子どもは、「親のせいにしてはいけない」と考えるのではなく、「親だって人間であり、善人ばかりではない」と認識し、できるだけ早く親から離れるなり、行政やNPOに相談してみるなりする必要があります。
「親ガチャ」があるかどうかの認識は二分しているようですが、虐待、DV、ネグレクト、貧困に苦しめられている子どもたちは確実に存在します。
大切なのは、そういった存在を無いものとせず、彼らの声に耳を傾けることでしょう。