「SNSでの晒し行為」は正義?私刑?ネットで晒されたその後は…?

近年、インターネットの普及とともに、SNSでの「晒し行為」が社会問題となっています。

Twitter(現X)やInstagram、TikTokなどのプラットフォームで公開された個人の行動に対し、批判したり個人特定をしたりする行為は果たして正義なのでしょうか? それとも行き過ぎた私刑なのでしょうか?

今回は、SNSでの晒し行為の是非や、晒す人の心理晒された後の対処法などについて解説していきます。

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今来今

編集者を経て現在フリーライター。複数メディアにて、執筆・連載中。視界が開けるような記事を発信していきたいです。

目次

ネット晒し投稿の2パターン

晒し投稿とは、個人の問題行動や発言をSNSなどで公開・掲載し、不特定多数の人々に知らせる行為のことであり、大きく分けて2つのパターンに分けられます。

自爆型の晒し投稿

自爆型は、いわゆる「バカッター」と呼ばれる現象で、本人が自ら不適切な行動をSNSに投稿してしまうケースです。

例えば、コンビニの冷凍庫に入る、飲食店で不衛生な行為をする、電車内で迷惑行為をするなど、社会的モラルに反する行動を自ら発信する事例が確認されています。

自爆型の目的はさまざまであり、ことの重大さを理解せずに何の気なしに投稿したパターンもあれば、炎上マーケティング目的のものもあります。

他者による晒し投稿

迷惑行為を受けた側や目撃者が、加害者の行動を撮影・投稿するケースもあります。

このような晒し行為は、電車内での迷惑行為、店舗での横柄な態度、交通違反など、様々な場面で発生しています。

晒し行為は正義?私刑?

晒し行為を「正義」と捉える人々の論理は、

悪いことをした人には相応の罰が必要」「法的制裁が期待できない場合、社会的制裁しかない
同様の行為の抑制効果が期待できる

といった点にあります。

確かに、法的な処罰が困難な迷惑行為に対して、社会的な制裁を加える機能は一定の意味があるでしょう。

しかし、この行為が「私刑」と批判される理由も明確です。晒し行為は、適切な手続きを経ない制裁、過度な処罰誤った情報に基づく攻撃プライバシーの侵害など、多くの問題を含んでいます。

晒し行為は事実の切り取りであり、前後の文脈によって意味が変わってくることもありますし、冤罪の可能性も否めません。そう考えると、一概に全ての晒し投稿が正義だとは言えないでしょう。

ただし、犯罪の抑止や、法で捌けない罪を世に問う効果がある場合もあるので、一概に「私刑だから絶対悪」とも言い切れないのが実際のところです。

【訴えることは可能?】法律で裁かれる晒し行為とは?

正義感から行った「晒し行為」であっても、法的に違法とされる可能性があります。内容によっては、慰謝料や損害賠償の請求刑事罰の対象となることも。

ここでは、晒し行為が法的責任を問われる主なケースを紹介します。

名誉毀損罪

他人の名誉を傷つける内容を公然と発表することは、名誉毀損罪(刑法230条)に該当します。真実であっても、公益性や相当性が認められない場合は違法となる可能性があるのです。

【刑事責任】3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金
【民事責任】慰謝料の請求対象にもなる

裁判例でも「真実でも晒せば名誉毀損」とされたケースがあります。

プライバシー侵害

個人の私生活に関する情報を本人の同意なく公開することは、プライバシー侵害として民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。

肖像権侵害

本人の同意なく顔写真や動画を公開することは、肖像権侵害に該当する可能性があります。

営利目的でない場合でも、人格権の侵害として問題となることがあるので注意が必要です。

脅迫罪 

場合によっては、「晒すぞ」という発言が、相手に害悪を告知する脅迫として認定される場合があります。「晒すぞ」と脅されたら、弁護士に相談してみましょう。

SNSの晒し投稿の具体的事例

次に、具体的な晒し行為の事例について確認していきましょう。

「キャバ嬢ひめか」事件。色恋営業絡みの晒し

キャバ嬢のひめかが、客だった実業家の菊池翔によって、プライベートなSNS投稿や動画などを晒された事件です。

菊池翔はひめかと「付き合って」おり、結婚を匂わされて大金を使った挙句、裏垢でバカにされたことで逆上し、晒し行為に至りました

晒されたメッセージのやり取りや動画の中には、ふたりがベッドでいちゃついているものや、ホテルでのバニーガールコスプレなど、レベンジポルノに含まれるものもあったのです。菊池翔による晒し行為は数ヶ月に渡って執拗に続き、その間、ひめかは、表舞台から姿を消しました。

しばらくのち、ひめかは就任したばかりだったキャバクラの社長を辞職し、キャバ嬢として再び働くことになりました。

この晒し行為は、アラフィフの男性が、20代のキャバ嬢に色恋営業をされた結果、実は金目当てだったという事実に逆上した結果、行われました。

こういった色恋営業に端を発する晒し行為は、これまでもしばしば行われてきました。しかし2025年6月に、キャバクラやホストクラブなどの色恋営業を禁止する法律が施行されましたから、今後は徐々に減っていくものと考えられます。

「シュシュ女」事件。推し活絡みの晒し

推し活絡みの晒し行為が話題になったこともあります。

韓国アイドルの特典会で、アイドルとファンとの距離を適切に保ち、移動を促すスタッフを“剥がし”と言いますが、その剥がしの役割を担っていたシュシュをつけた女性の態度が悪質だったとして炎上したのです。

動画では、その女性がファンの背中を必要以上に強く押したり、ファンの様子を嘲笑ったりしているように見えたため、SNS上で炎上しました。

炎上するや否やすぐに女性の本名や顔写真が特定され、“私刑”なのではないかと物議を醸したのです。

飲食店での迷惑行為。自ら晒すバカッター

コンビニエンスストアで、男性アルバイトが冷凍庫に入り込む動画をSNSに投稿する、10代の男性が回転寿司スシローの醤油ボトルを舐めるなど、自ら迷惑行為を晒すパターンもあります。

スシロー事件は、企業のイメージを大きく損なうものであったため、スシローは男性に対して6800万円の損害賠償を求める裁判を起こし、のちに和解に至っています。

こういった自らの犯罪行為や倫理的に問題がある行為を晒し、炎上する人はバカッターと呼ばれ、主に10代など若い男性に見られがちです。

明確な犯罪行為の晒し

「電車内で寝ている女性に痴漢している動画を拡散する」「ぶつかりおじさんが女性にわざとぶつかっている動画を拡散する」など、犯罪行為を録画して晒す行為もあります。

こういった晒し行為をしている人たちは、犯罪の可視化や同様の犯罪の抑止を目的として行なっているようです。

しかし、こういった晒し行為に対しては、「公に公開するのではなく、警察に通報するだけにしておくべき」という批判も見られます。

SNSやWEBサイトなどネットに晒す人の心理

次に、晒し行為を行う人の心理について見ていきましょう。晒し行為を行う人の心理には、複数の要因が複雑に絡み合っています。

正義感で晒してしまう

多くの晒し行為者は、「悪いことをした人を放置できない」「晒すことで社会のためになる」という正義感を動機としています。

特に、法的な制裁が期待できない迷惑行為に対して、社会的制裁を加えることで秩序を保とうとする心理が働いているようです。

承認欲求のために晒してしまう

SNSでの投稿は「いいね」やリツイート、コメントといった反応を得ることができます。晒し投稿は特に注目を集めやすく、投稿者の承認欲求を満たす効果も期待できます。

バカッターなどは、過激な行為で注目を得ようとする典型的な事例でしょう。

ストレス発散のために晒してしまう

日常生活でのストレスや不満を、晒し行為を通じて発散しようとする人もいます

復讐心・許せない気持ち

直接的な被害を受けた場合、相手に対する怒りや復讐心が晒し行為の動機となることもあります。

群集心理で晒してしまう

一度晒し投稿が拡散されると、多くの人が批判コメントを投稿します。集団的な行動に参加することで、連帯感や一体感を得られるため、加速してしまいがちなのです。

匿名性によって攻撃的になる

インターネットの匿名性は、現実では行わないような攻撃的な行動を取りやすくします。

相手の顔が見えない環境では共感性が低下するため、過度な批判や攻撃を行う心理的な障壁が下がりがちです。

晒し行為を見る側の心理とは?

晒し行為は、それを見て、反応する人がいなければ成立しません。次に、晒し行為を見て、怒ったり楽しんだりする人たちの心理についても確認しましょう。

野次馬根性

人間には他人のトラブルや失敗を見たがる心理があります。晒し投稿は、この野次馬根性を満たす娯楽的な要素を含んでいます。

正義感

自分では行動を起こさないものの、他人の正義的な行動を支持することで、正義感を満たそうする心理も働いています。

優越感

他人の失敗や問題行動を見ることで、自分の方が優れているという優越感を得る心理も働きます。

責任を負う必要がないので気楽

多くの人が同じ行動を取っているため、個人の責任が分散されているように感じ、晒し行為にいいねを押したり、コメントしたりする人もいます。

注意しておかなければならないのは、晒し投稿を拡散する行為批判コメントを投稿する行為も、晒し行為の一部として法的責任を問われる可能性があるということです。見る側にも一定の責任があることを認識する必要があるでしょう。

晒された側の人生はどうなる?


晒し行為の被害にあうと、「怖い」「不安」「怒り」「恥ずかしさ」など、心に大きなストレスがのしかかります。

特にSNSなど不特定多数が見る場所で晒されてしまった場合、その情報はデジタルタトゥーとしてネット上に半永久的に残り続けるおそれがあります。

いったん拡散された画像や投稿は、本人が削除しても完全には消えません。検索結果に残ったり、スクリーンショットが出回ったりすることもあり、被害が長期化・深刻化するのが現実です

社会的信用の失墜

一度インターネットに拡散された情報は、完全に削除することが困難でありデジタルタトゥーとして残り続けます。

検索エンジンで名前を検索すると、晒された情報が上位に表示される可能性もあるため、就職活動や転職活動、人間関係の構築に長期間にわたって影響が出るリスクがあります。

精神的に追い詰められる

大量の批判コメントや誹謗中傷を受けることで、うつ病や不安障害などの精神的な病気を発症するケースがあります。特に、長期間にわたって継続的な攻撃を受ける場合、その精神的負担は計り知れません。

経済的な損失

勤務先での処分、解雇取引先との関係悪化など、経済的な損失も深刻です。特に、企業や店舗に迷惑をかけた場合、損害賠償請求を受ける可能性もあります。

家族や関係者への影響

晒し被害は本人だけでなく、家族や友人、同僚にも影響を与えます。関係者の個人情報が特定され、同様の攻撃を受けるケースも少なくありません。

もし「ネットに晒す」と言われたら?

もし誰かから「ネットに晒す」と脅されたら、パニックになってしまいがちです。ここでは、落ち着いて対応するためのヒントを紹介していきます。

焦らない

まず重要なのは、冷静さを保つことです。感情的になって反論や謝罪を急いでしまうと、状況が悪化する可能性があります。

相手の要求や感情を理解し、建設的な解決策を模索しましょう。

事実関係を整理する

トラブルの原因となった出来事について、客観的な事実を整理しましょう。

可能であれば、証拠となる資料やメッセージを保存しておくことが重要です。

専門家に相談する

状況が複雑で自分では対処が困難な場合は、弁護士や専門機関に相談することを検討しましょう。

法的な観点からのアドバイスを得ることで、適切な対応策を見つけることができます。

誠実に対応する

自分に非がある場合は誠実に謝罪し、適切な対応を取る姿勢を示しましょう。

ただし、過度な譲歩不当な要求には応じる必要はありません。

晒された場合の対処法

次に、実際に晒し被害を受けた場合の対処法をご紹介します。

証拠を残す

まず、晒し投稿や批判コメントのスクリーンショットを保存しましょう。URL、投稿日時、投稿者の情報なども記録しておくことが重要です。

これらの証拠は、後の法的手続きで必要となる可能性があります。

プラットフォームに報告する

Twitter、Instagram、TikTokなどのSNSプラットフォームには、不適切な投稿を報告する機能があります。

利用規約に違反する内容であれば、投稿の削除アカウントの停止などの措置が取られる可能性があります。

法的手続きを検討する

名誉毀損、プライバシー侵害、肖像権侵害など、法的な問題が発生している場合は、弁護士に相談することを検討しましょう。

発信者情報開示請求損害賠償請求などの手続きが可能な場合があります。

検索エンジンに削除要請をする

Googleなどの検索エンジンでは、「忘れられる権利」に基づく削除申請が可能です。

また、SEO対策により、負の情報よりも上位に表示される正の情報を増やすことも有効です。

精神的なケアを受ける

晒し被害による精神的な影響は深刻です。

必要に応じて、心理カウンセラーや精神科医師などの専門家に相談し、適切なケアを受けることが重要です。

周囲の人に説明する

家族、友人、職場の同僚などに対して、事実関係を説明し、理解を得ることも大切です。

誤解を解くことで、人間関係の悪化を防ぐことができます。

晒し行為で人生を終わらせないために

最後に、晒し行為で加害者にも被害者にもならないために、社会全体でできることを紹介します。

デジタルリテラシーを高める

デジタル・リテラシー教育を通じて、インターネットの適切な使用方法晒し行為の問題点について理解を深めることが重要です。若いうちから、晒し行為のリスクについて学んでおく必要があるでしょう。

プラットフォームの責任を追求する

SNS運営企業には、不適切な投稿を迅速に削除する体制の整備や、ユーザーの行動を監視するシステムの改善が求められます。そういった責任を放置しているSNSは使わない、という姿勢をユーザーが見せることで、企業は変わらざるを得なくなるでしょう。

法制度の整備

現在の法制度では、晒し行為に対する対処が十分でない場合があります。時代に法律が追いついていない面もあるので、時代に即した法整備が求められるでしょう。

処罰よりも更生を求める

完璧な人間は存在せず、誰もが過ちを犯す可能性があります。過度な処罰よりも、反省と成長の機会を与える寛容な社会の実現が重要でしょう。

晒し行為は、見て、拡散する人がいるから行われる

SNSでの晒し行為は、正義感に基づく行動として始まる場合が多いものの、その結果として生じる被害は深刻長期間にわたります。法的制裁が困難な迷惑行為に対する社会的制裁という側面はあるものの、適切な手続きを経ない私刑的な性質も強く、多くの問題を含んでいます。

晒し行為を行ったことで、損害賠償請求をされたり、法的責任を追及されたりするケースもありますから、晒し行為を行う前に、その行為が本当に必要なものかを慎重に考える必要があるでしょう。また、晒し被害を受けた場合は、証拠保全、プラットフォームへの報告、法的手続きの検討など、適切な対処を行うことが重要です。

また、晒し行為を拡散したり、リプライしたりすることも、晒し行為を助長しているという意識も必要です。

どうしても許せない行為が晒されていた時、晒された人を吊し上げたくなる気持ちは理解できます。しかし同時に晒し行為に加勢することにはさまざまなリスクがあることも、認識しておく必要があるでしょう。

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